「農民」記事データベース20010709-500-02

大手商社、次つぎ中国に精米工場

関連/いま、中国・黒竜江省で猛烈な「開田ブーム」


 輸出拠点の国有農場ではきらら・コシヒカリに集中

 商社戦略の二つめのポイントは稲の品種ですが、黒龍江省の稲作の大きな特徴である「国有農場」(農墾区)の力を生かした輸出志向政策が結びついて、驚くべき事態が進んでいます。

 表3のように、黒龍江省全体で作られている品種の六割は、日本の品種との掛け合わせか、日本の品種そのものです(「藤」は日本の耐冷品種育種のメッカである青森・藤坂試験地のこと)。

表3 黒竜江省水稲作付上位5品種〔1999年〕
 
面積
割合
系  統
全省合計
1,475
100.0
 
綏粳3号
294
19.9
藤系138×87-239
墾稲8号
219
14.9
藤系138×[藤系138×合交]
合江19号
203
13.8
[ユーカラ×合江12]×テイネ
空育131号
154
10.4
北海道中央農試岩見沢試験地
東農419
116
7.9
 
合 計
986
66.8
 
 

 しかし、もっと驚くのは国有農場の動向です。

 表4で、輸出米生産農場に指定されている新華農場内の一集落(生産隊)の作付品種の移り変わりを見ると、九九年に七割近くを占めた「合江341」が二〇〇〇年にはゼロになり、「上育397」(きらら)が六五%、「新月光」(新コシヒカリ)が二二%を占め、二〇〇一年には完全にこの二品種に転換することになっているといいます(坂下北大助教授ら)。農場付属企業(公司)の価格保障による全量 買い上げが、この年替わりの激しい品種転換を促進しています。

表4 きらら、コシヒカリに集中する国有農場
新華農場29隊の品種構成
 
1999年
2000年
2001年
面積
比率
面積
比率
備 考
 
合江341
450
65.6
0
0
 
0
合江188
31
4.5
0
0
 
0
空育131
200
29.2
108
13.4
 
0
きらら
4
0.6
521
64.6
全量買上
2品種に転換
新コシヒカリ
0
0
177
22.0
全量買上
合 計
685
100.0
806
100.0
 
 
坂下明彦他「中国三江平原における国有農場の水田開発と稲作経営」(『北海道大学農経論叢』第57集)から
 

 伊藤忠、三井物産などが現地進出きそう

 日本製の精米機で品質をグレードアップさせるという三つめの戦略も着々と進んでいます。

 一九九七年、国有農場を管轄する黒龍江省政府農墾総局と新華農場、日本商社・ニチメンは合弁で「新錦精米加工有限公司」を作り、九八年から年産二万五千トン規模で操業を開始しました。「サタケ」の精米機・選別機などがワンセットで導入され、精米の品質はかつての緊急輸入米とは比べものにならないレベルだといいます。

 「契約栽培農家には厳しい減農薬栽培を求め、精米加工段階では基準に合った選別を行い、『緑色食品』として真空パックで販売する。日本向け真空パックは『北珠牌』(北のパールライス)ブランド、『緑色食品』であることが強調されている。お土産にもらった『北珠牌』を帰国後に計測したところ、整粒歩合九六、白度四六、食味七九だった」(『中国黒龍江省のコメ輸出戦略』)。

 国内向けには普通米の二倍(一キロ四元)で一〜一万五千トン売り、輸出は合計一万三千トンのうち日本向けが六千四百トン(九九年)、二〇〇〇年には二万トンの対日輸出を計画。

 ニチメンだけではありません。表5のように三井物産、伊藤忠商事、トーメンなども精米工場を中国に作り、精米機最大手のサタケは精米機工場を作っています。しかも、そろいもそろってミニマム・アクセス米輸入が動き出してから。

表5 大商社 中国に精米工場を次々に
現地企業名
日本側出資企業・出資比率
設立
黒竜江省新錦精米加工 ニチメン25% 97.7
吉林省徳恵佐竹金徳 サタケ34.2% 三井物産20.8% 95.11
北京華藤示範米業 サタケ35% 大阪第一食料16% 伊藤忠14% 95.8
廊坊伊藤謹糧食加工 トーメン50% 伊藤謹50% 94.11
佐竹機会〔蘇州〕 サタケ100%〔精米機製造・販売〕 97.1
『中国進出企業一覧』などから作成
 

 吉林省にある徳恵佐竹精米工場は、九八年から「あきたこまち」の契約栽培をスタートさせて日本に輸出しているほか、「品種比較試験田」を設け、九九年には試験田で選定した三品種(いずれも輸出用品種)の種子を増殖し、二〇〇〇年から契約栽培を始めていることを社内誌でトクトクと自慢しています。

 日本国民の税金を使って輸出用拠点を整備

 さらに問題なのは「新錦精米加工」の精米システム一式は、日本政府が第四次円借款で低利融資したものであること。

 日本国民の税金を使った低利融資で、日本製の精米機を中国に輸出し、精米された米はミニマム・アクセス(SBS)米として日本に輸入され、その結果、日本の農民は減反強化を強いられ、国民は「ニセ国産」を食わされる――こんなバカげたことを「対外援助」の名目で進めているのが、自民党政府なのです。

 中国のWTO加盟で強まる対日輸出圧力

 村田教授は、中国のWTO加盟にともなって「中国農業の『構造調整』の中心になるのが、国際競争力のある農産物への生産のシフトと輸出拡大であろう」「とりわけジャポニカ米については、日本や韓国への輸出に活路を見出そうとする動きがもっと強まるだろう」と指摘し、「有機農産物を輸出戦略の基本に据えるものとみられる」と警告しています。


ミニマムアクセス(輸入米)の廃止を堂々と要求せよ

 ミニマム・アクセス米輸入を“義務”だと言い張って、国民が食べもしない外米を六年間で三百四十万トンも輸入し続けたため、米価は大暴落、減反はついに百万ヘクタールを超えました。タダ同然の飼料用米や青刈りまで強要するしまつです。

 しかも、その間隙をぬって、日本の商社が種子や精米機まで持ち込んで、日本人の好みに合わせた米作りに狂奔しています。

 こういう事態を放置しておけば、米まで野菜やシイタケの二の舞になることは必至です。

 私たちは強く要求します。

 (1)「米余り」の国にまで米輸入を押しつける「ミニマム・アクセス」を廃止せよ。政府は、ミニマム・アクセス廃止をWTO農業協定改定の最大の焦点にせよ。

 (2)大企業の「開発輸入」を規制せよ。対日輸出をねらった精米工場、水田開発などに対する対外援助を中止せよ。

 (3)当面、ミニマム・アクセス米輸入を減らし、米価回復と減反面積縮小をはかれ。あわせて、自主流通米入札の値幅制限を復活し、大企業の買いたたき野放し政策を改めよ。

 (2)と(3)は、政府がやる気になれば、すぐにでも実現可能な政策。特別な予算もいりません。

 (1)は日本政府がまず声を出すことが不可欠ですが、自民党政府は、昨年十二月の「WTO農業交渉日本提案」にも、ことし六月の「詳細提案」にも、いっさい明記していません。「交渉に引きずり出されるのがこわい」というのが、その理由ですが、アメリカやWTOに気兼ねする前に、日本の農民と消費者の声を代表して外交交渉にあたるべきです。


 読んでみませんか『中国黒竜江省の米輸出戦略』

 この特集のきっかけになったのは、六月一日に出版された『中国黒龍江省のコメ輸出戦略』という本。福岡県稲作経営者協議会が九州大学農学部の協力を得て、昨年七月に行った黒龍江省のジャポニカ米産地視察の結果を、農民と研究者の共同の目線でまとめたものです。

 「百聞は一見にしかず」と言いますが、相当な準備をかさねたうえで現地を見た人のリアルな報告が重いショックを与え、そのうえで、この日本で農民としてどう生きていくかを模索する姿勢が共感を呼びおこします。

(家の光協会、定価千六百円+消費税)

(新聞「農民」2001.7.9付)
ライン

<<BACK][2001年7月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2001, 農民運動全国連合会