なぜ流行するのか、その対策は?世界で続発する口蹄疫小河孝(農業技術研究機構動物衛生研究所)海外病研究部長に聞く今年二月に発生したイギリスの口蹄疫。三百二十万頭以上の家畜を殺処分、観光業に大打撃、GDP(国内総生産)の押し下げ(〇・三%以上)など大惨事になり、フランス、オランダ、アイルランドにも飛び火しました。さらに今年に入って、南米や西アジアなどでも口蹄疫が発生。昨年、日本で起きた宮崎、北海道の「悪夢」を思い起こさせます。そこで、「なぜ口蹄疫が大流行するのか?」「どうしたら日本への侵入を防げるか?」――独立行政法人・農業技術研究機構、動物衛生研究所(旧家畜衛生試験場)の小河孝・海外病研究部長に話を聞きました。聞き手は、佐々木健三・農民連会長です。
背景にWTO体制も佐々木 イギリスの大流行の原因は何でしょうか。小河 はっきりしたことは分かっていません。ただ、ウイルスの遺伝子を調べてみると、イギリスで発生したものは、南アフリカのものと隣り合わせ、よく似ています。南アフリカは中国から豚肉を輸入しており、ウイルスが中国から南アフリカ経由で入ったのではないかと疑われています。 タイプはO型です。口蹄疫の種類は、世界に七つあって、アジアに四つ、アフリカに固有のものが三つ。もっとも世界的に広がっているのがO型です。 世界的に見れば、北アメリカや北欧、オーストラリアなど、口蹄疫のない国のほうがめずらしいのです。イギリスは二十年前に発生していますし、EUがワクチンを禁止したのはわずか十年前です。ほんの十〜二十年間、口蹄疫がない国になっていたに過ぎません。 口蹄疫は、家畜の口・蹄間・乳頭などに水疱ができ、発熱、食欲不振などが典型的な症状です。乳が出なくなったり、体重が減少するので、近代的な畜産では経済的被害が甚大です。そのうえ伝播力が非常に強いので、侵入に神経を尖らせています。 そこで、どうして口蹄疫が広がるかということですが、世界的に見れば、農産物や家畜の貿易を何でも自由化しようというWTO体制と、それを補う“動物・植物検疫協定”(SPS協定)です。効率優先が生んだ畜産のゆがみその危険に、自由貿易体制のもとで絶えずさらされているのが先進諸国です。
輸入への依存は危険佐々木 日本で再発を防止するためには、どうしたらいいでしょうか。小河 昨年、宮崎で口蹄疫が発生した時、私は九州支所にいて、対策会議にも参加しました。それから私の今いる研究所で、六万件の血液を集めて、しらみ潰しに調べました。というのは、昨年の口蹄疫は典型的な症状が表れず、そうしないと調べがつかないと考えたからです。その中で、北海道本別町の肥育農家の牛が、何度も採血して調べていくうちに、だんだん抗体があがっていく、ウイルスの遺伝子の断片も見つけ、口蹄疫と診断しました。 宮崎県の発生例の侵入経路を検討していくうちに、粗飼料の中国産麦ワラがあやしいとなり、全国的な追跡調査も行いました。しかし、ウイルスは、生きた細胞の中でしか生きられないので、ワラからは調べられず、発生原を特定できませんでした。ワラに付着した糞や土が汚染されていた可能性はあります。 現在、中国はWTOにも、OIE(国際獣疫事務局)にも加盟していないので、公式な情報はいっさい出ませんが、口蹄疫があるといううわさは以前からあります。また口蹄疫の生ワクチンを使っていたという未確認情報もあります。
政府は今年四月、消毒を条件に中国産稲ワラの輸入を解禁しました。ヤン草などの牧草も中国から輸入されています。いつ口蹄疫が再び日本に入ってきてもおかしくありません。
安全な国産飼料を小河 政府は、口蹄疫の発生を受けて、緊急稲ワラ対策を始めました。私は、稲ワラ確保のために補助金を出すことは必要なことだと思います。今は金にまかせて何でも世界から買いあさる時代ではありません。“安全”という問題は、お金では買えないのです。 佐々木 例えば、架掛けをしているような中山間地で、補助金を出してその稲ワラを集めるならば、悪条件のところの農業を励ます側面も出てきます。ところが農水省のやり方は、実際には“稲ワラを集める大型の機械を買え”というものです。もっときめ細かい対策を何年もやる、本気の対策に充実させていくことが必要だと思います。 今日は話を聞いて、口蹄疫の問題はWTO体制の矛盾の最たるものの一つだと思いました。何でも輸入すればいいという体制にメスを入れなければなりません。食の安全や国民の健康を守る運動に力を合わせていきましょう。
(新聞「農民」2001.6.18付)
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[2001年6月]
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