「農民」記事データベース20010611-496-01

農業者年金法改悪(受給額9.8%カット)自公保が強行

参院選で審判を下そう

農水委で法案反対の意見陳述をした農民連の佐々木氏


受給カットせず、むしろ拡充を

 「年金給付額の九・八%の削減は許せない」――農業者年金の改悪法案が五月三十日、参院本会議で自民、公明、保守の与党三党などの賛成で可決、成立しました。日本共産党など野党は反対しました。施行は来年一月一日。

 農民が安心した老後を送ることができ、後継者も希望が持てるように拡充してほしいという要求を踏みにじり、しかも年金給付の削減は公的な年金制度では初めてという暴挙を強行した与党。農民の怒りは高まっています。

 五月二十九日に開かれた参院農水委員会で農民連の佐々木健三会長は参考人として出席し、改悪案に反対の意見陳述をしました。


5月30日

参院農水委員会での農民連佐々木健三会長の意見陳述(要旨)

 私は、法案に反対の立場から意見を述べます。

 私自身も農業委員を経験し「農業者年金は国の制度であり、安心して加入してほしい」と農家に勧めてきましたが、“老後をこの年金で”と思って加入した多くの農家の皆さんの心を裏切るものであることを率直に指摘せざるをえません。

 年金を削るのではなく、むしろ拡充し、安心した老後を送ることができ、後継者が希望を持って農業を続けられるようにすべきと思います。

 受給カットは「国家的詐欺」

 私たちの活動の事例を話したいと思います。福島市を中心にした地元の農業高校の卒業生が、年金受給年齢となり、勉強会をやり、行政機関などにも要請してきました。

 私たちは一九五九年に農業高校を卒業し、六〇年に農業基本法が制定されたもとで、農業を一生懸命やり、日本の高度成長を支え、文字通り戦後の日本農業とともに歩んできました。ようやく年金を受けようと窓口に行ったら、支給カットを聞いたわけです。

 「われわれの苦労に対するこの仕打ちは、決して容認できない」「政府を信頼して掛け金を払い続けてきたのに、これでは国家的詐欺にあったようなもの」と仲間は痛烈に言います。

 この気持ちを行動に移そうと農協、農業委員会、自治体を訪ね、農業者年金改悪への反対の意思を伝え、要請を行ってきました。現場では「遠からず、もっと悪い内容になってしまうだろう」「後継者はますます離れるだろう」という声がほとんどで、私も同感です。同時に、農業者年金の削減は、他の年金改悪へとつながる恐れもあります。

 悪政の責任を押しつけるな

 提案された法案は年金受給者七十五万人、加入者二十九万人で、年金制度が維持できない、などの理由で改正するとしています。しかし、議論は肝心の基本となる点が欠落しています。

 第一は今日の農業と農村の現実です。第二に、今日の農業の現状をつくった政府の責任がまったく論じられず、結果責任を農民にしわ寄せしていることです。

 戦後、農民は食糧難を打開するために増産に貢献し、まさに農民の苦労や奮闘なくして今日の日本経済はありえなかったと自負しています。

 しかし一方で、政府は、工業の発展に軸をおいた政策を遂行し、食料を外国から輸入してまかなう農産物の輸入自由化政策を一貫して進めてきました。その結果どうでしょう。旧農基法が制定された一九六〇年に約八百万世帯存在していた農家は、今日三百二十万世帯に減少し、食料自給率はカロリーベースで四〇%にまで低下しています。

 とりわけ、WTO農業協定後の六年間は、米の減反政策と平行してコメの輸入が行われる事態となり、米価は五千円〜六千円も低下し、政府が育成しようとしている大規模生産者ほど苦しい状況におかれています。野菜も畜産も輸入急増で価格が低迷し、農家経営は重大な打撃を受けています。

 今日、農業者年金をめぐる問題の中心は、こうした農政によってもたらされたものであることは明かではありませんか。その責任を農民に押しつけることに、多くの農家が憤りを覚えることは当然です。

 制限せずに全農民を対象に

 法案の問題点を指摘します。まず、受給額の平均九・八%のカットについてです。農業者年金加入者は長年にわたって苦しい経営のなかから掛け金を払い、受給を心待ちにしています。

 これまで議論があった「受給額三割カットに比べて九・八%はたいしたことがない」などという議論は、とうてい容認できません。受給額の削減は、農家の暮らしと経営、農村経済をますます冷え込ませるものといわなければなりません。

 新規加入者に対する政策支援(月六千円を別途積立て農業を継承した時に支給する)を限定することも重大です。法案によると、青色申告を行う認定農業者に限定するとしています。政府統計によると、認定農業者の数は十六万弱、青色申告者は七万三千で、農家の大部分は政策支援の対象外にされます。

 昨年、制定された新農基法では、その「基本計画」で自給率目標を四五%としています。圧倒的多数の農家を事実上、農業者年金から締め出し、将来のくらしの展望を奪って、自給率向上が実現できるか疑問です。農業に意欲を持つ人は、みんな対象にすべきであると強く求めたいと思います。

 今回の農業者年金法の改正をめぐって問われているのは、農業の基本にかかわるものです。いま小泉内閣が誕生し、農政にどんな影響が生まれるのかと、期待するむきもあります。しかし、いままでもらっていた年金が削られることは初めてです。今回の受給者への負担を強いる「改正」は、弱者いじめの政治そのものと断ぜざるを得ません。

 私ども農民連は、農村と農業の復権をめざし、全国で活動しています。農業者年金を削減せず拡充するよう、今後とも全力をあげて取り組んでいくことを述べて、私の意見とします。


見出しは、編集部でつけました。

(新聞「農民」2001.6.11付)
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2001年6月

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