「農民」記事データベース20010604-495-05

介護保険がスタートして1年

依然厳しい介護の実態

 介護保険がスタートして一年がたちました。茨城農民連女性部ゆいの会は、農村での介護を取り巻く状況はどうなっているのかと、介護保険についての学習会を開いたり、女性部員らにアンケート調査を行い、百五十一人から回答が寄せられました。この結果を分析し、介護保険の改善を求め県や市町村へ要望していくことにしています。

 五月二十二日、アンケート調査に回答した女性部員を訪ねました。常陸野農民センター女性部の久保田紀子さんと、アンケート調査に協力してくれた石岡市在住の杉本美江さん(元全国福祉保育労組委員長)が同行してくれました。

(西村)


施設・サービスの充実急務

茨城県常陸野の現場をリポート

 農作業の疲労と重なり入院

 霞ケ浦町で夫とともに水田と養豚を経営する専業農家の主婦の平野春江さん(60)。

 おばあちゃんのきくのさん(90)は、六年前に右大腿関節部を骨折して以来、右肘、左肘と度重なる骨折で入退院の繰り返し。少し良くなりトイレだけは自分ですませるようになったものの、二年前に持病のリュウマチが悪化、ほとんど寝たきりの状態に。

 春江さんは農作業を続けながら、きくのさんの食事やおむつの世話などに明け暮れ、多い時は、一日に十数回も仕事場ときくのさんの間を往復する日が続きました。長年の農作業の疲労も重なり腰を痛め、「手術以外に快復の道はない」と医者の宣告を受け、昨年三月、背骨のすりへった部分にセラミックを入れて補強する手術を受けました。

 春江さんの入院で、きくのさんの介護をする人がいなくなるため、近くの老人保健施設に入所させることになりました。施設では毎月七万円前後の費用がかかりました。きくのさんは、今年四月二十二日に亡くなりました。

 家族の助け合いだけでは限界

 春江さんは自らの体験を次のように語っています。

 「年老いた親の面倒は、家族がみるのは当然と思って頑張ってきましたが、農作業と介護の両立は本当に大変でした。家族が助け合って人間の生き死にを家の中で知ることは、子どもたちにとっても良い教育につながると思います。しかし、先の見えない介護は、家族だけでは限界があります。

 主人も長男も積極的に本当によく協力してくれました。私一人だったら、もっとずっと以前に倒れていたと思います。介護の資格などなくても、長年生活をともにしてきた家族(とくにお嫁さん)は、介護される側にとって最高のヘルパーだと思います。それでも家族介護に疲れた時に、いつでも安心して預かっていただける安い場所をもう少し増やしてほしい。親が高齢になればなるほど、介護する者も年をとります。

 厳しい農業経営の中で、生活してゆくために身体にムチ打って働き、親の介護をしなければならない。この現実は、体験した者でないと決してわかるものではありません」


 いつでも頼れる制度が必要

 現在介護をしている西村ふみ子さん(54)は、玉里村でレンコンの専業農家の主婦。おばあちゃんの貞子さん(83)は十年前に脳梗塞で倒れ、少しずつ痴呆が進み、三年前からおむつを使用するようになりました。訪ねた日、貞子さんが熱を出し、病院に連れて行ったふみ子さん。

 昨年は村から一カ月おきに紙おむつが七十枚ほど支給されましたが、ひと月で使いきってしまい、一カ月分は自己負担でまかないました。貞子さんはデイサービスに一週間に一度通っています。

 ふみ子さんは「おばあちゃんは、まだ寝たきりにはなっていません。おむつや介護保険料、医療費などは、おばあちゃんの年金でなんとかしています。私がいない場合、いつでも頼れる制度が必要です。介護サービスを受ければ受けるほど費用がかかり、大変になると思います。私の周りにも年金だけで暮らしている独居老人がいます。本当に大変だと思います」と自分のことよりも他の人を気遣っています。

 平野さんや西村さんは、介護保険の実施後、デイサービスの利用料が四百円から二千円に上がり、利用回数を減らしたり、老人保健施設に入ろうとしてもなかなか入所できない人がいるなどの実態も話してくれました。

 施設の整備や介護サービスの内容を充実させることが、いま緊急に求められています。

(新聞「農民」2001.6.4付)
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2001年6月

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