「農民」記事データベース20010521-493-02

小泉首相の所信表明

似つかわしくない「米百俵の精神」


 小泉首相の所信表明が五月七日に行われ、「今の痛みに耐えて明日を良くしようという『米百俵の精神』こそ、改革を進めようとする今日の我々に必要ではないか」と結びました。

 山本有三氏の戯曲『米百俵』は、明治の初め財政難にあえぐ長岡藩に、分家の三根山藩から見舞として送られた米百俵をめぐって、「すぐに分配しろ」と迫る藩士に対し、長岡藩の大参事・小林虎三郎が「大本は日本人同志、鉄砲の打ち合いをし、民を塗炭の苦しみにおとし入れたことだ。かような失策を再びさせたくない。あの時、先のみえた人物がおりさえしたら、同胞はお互いに血を流さずにすんだのだ」「大本を定めて土台から築きあげてゆくことだ。だからおれは、この百俵の米をもとにして、学校を立てたいのだ。学校を立てて、子どもを仕立てあげてゆきたいのだ」と、民のために世の中を大本から立て直していく話です。

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 『米百俵』の舞台になった新潟県では、今年に入ってわずか四カ月の間に、新潟市中野小屋地域の農民が三人、農業機械代金などの借金のために、生命保険を当てにして自殺しました。

 水田の三分の一の減反を強いられ、そら豆などの転作をしたがうまくいかず、減反に反対する行動も起きていました。追い討ちをかけるように「農業をやっている」ことを理由に、真っ先にリストラされたのです。

 米を含むすべての農産物の輸入自由化と価格保障全廃のもとで、農産物の価格が暴落し何を作っても引き合わない今の農村で、八割を超える兼業農家にいつ起きてもおかしくない事態です。専業農家や大規模農家も事態は同じです。

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 消費税を五%に引き上げ、医療・福祉の改悪で九兆円の負担を国民に押しつけて長期不況をもたらしたことには何の反省もなく、「構造改革」の名で不良債権最終処理を強引に進めて大銀行を助け、中小企業を倒産に追いこもうとしています。兼業農家の大半は中小企業で働いており、リストラと倒産で失業者は五百万人にも達するという試算もあります。

 小泉首相は所信表明で、「地球規模での競争時代にふさわしい、自立型の経済を作る」ため「非効率な部門の淘汰で痛みを伴う事態が生じる」、つまり世界的な規模の競争に勝ち抜けない農業・中小企業がつぶれても「恐れず、ひるまず、とらわれず」に「構造改革」を断行すると強調しました。

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 一方で小泉首相は「農業は国の基と私も思う」(日本共産党市田参院議員への答弁)と述べていますが、これは、自民党総裁選で味をしめた“総論もなければ、各論もない”パフォーマンス、偽善そのものです。

 失政・暴政の「大本」には何の反省もなく、大企業の繁栄の「土台」作りにうつつを抜かし、国民の幸せの「土台」を作るつもりも政策もなく、国民にだけ「痛み」を強いる――こういう小泉首相と自民党ほど『米百俵』の精神からかけ離れた勢力はありません。

(T)

(新聞「農民」2001.5.21付)
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2001年5月

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