「農民」記事データベース20010507-491-12

信州のおばあちゃんと“茶のみ”

吉田文子

 十二月のお茶飲みの時、「凍み大根」という、寒さを利用して作る「大根の高野豆腐のような食べ物」があり、とてもおいしいと聞きました。食べたことがない「おいしいものがある」と知ると、食いしん坊の私は、いてもたってもいられません。三月半ば、凍み大根の完成を待ち、再度、野沢温泉へ出かけました。


 凍み大根の作り方

 野沢道祖神まつりの頃(一月十五日)になったら、天気予報に気いつけててな、「明日寒じる」っていう日の朝、大根の皮をむくんよ。そうだなぁ、細いもんは一本のまんま、太けりゃ、縦に半割りにするかな。畑で大根作るとさ、きれいな大きいもんばっかじゃなくて、細いのや形の悪いのが、いーっぱいできるから、そういうので作るだよ。二時間以上、麻釜(九十度の源泉が涌き出る共同の調理専用お風呂)に入れといて、熱いうちに二本ずつワラでつなげて(稲ワラの芯の強いところを太い針に通したもので、二本の大根に穴をあけてつなげる)、できたものから雪の中に投げ込んでおくんだ。夕方日が落ちてから軒下につるすだよ。凍みてるから、大根に雪がいっぱいくっついててなぁ。朝までにカチンカチンに凍みて、昼間日があたって溶けてポタポタと水が落ちて、また、夜凍みて…。しだいしだいに、上から乾いてくるから、一カ月から一カ月半かけて、カリカリに乾燥させるだよ。今年はよーくできたなあ。

◇ ◇ ◇

 おじゃました民宿「なぐも」の「とくおばあちゃん」の家では、これを八十一歳の「太一おじいちゃん」が、畑で大根を育てることから干すところまで、すべて一人でやるのだそうです。

 保存がきくので、春先の野菜のない時や夏場大根が採れる前などに水に戻して食べるのです。寒さ厳しい信州でも、年によっては「凍み」が足りなくて失敗してしまうそうで、冷凍庫を使って作る人もいるとか。切り干し大根のようなポリポリした食感を想像していましたが、煮物として食べた凍み大根はふんわりと柔らかく、甘く、干したものとは信じられない味でした。みがきニシンと煮るのが伝統的な食べ方ですが、他に味噌汁に入れたり、酢のものにしたりと、いろいろな食べ方があるそうです。

 お伺いした朝、太一おじいちゃんは「ほいじゃ、行ってくるで」と、出かけていきました。週に三日はスキーを滑りに行くのだそうです。重ねて言いますが、太一おじいちゃんは八十一歳です。

 三月半ばだというのに、一晩で十五センチほどの雪が積もり、屋根には一メートルもあるツララが下がっている、寒さ厳しい土地。山の中で農地もそれほど広くありません。でも、豊富な山の幸と温泉を利用して、三世代家族で民宿を営み、楽しく元気に暮らしているおじいちゃん、おばあちゃんにお会いして、たくさんの元気をいただきました。


「凍み大根の煮物」の作り方(8人分)

 15センチくらいの長さの凍み大根3本、じゃがいも2個、にんじん1本、しいたけ2個、さつまあげ2〜3枚(または竹輪1本)、砂糖・大さじ2、白だし醤油・大さじ4(和風だしと塩、醤油でもよい)、醤油・小さじ1

 ○凍み大根はさっと洗って、乾燥している状態でサクサクと1センチ厚さに切る。じゃがいも、にんじんも輪切りにする。しいたけ、さつまあげは4つに切る。

 ○鍋に水を入れて、じゃがいも、にんじんを入れてしばらく煮る。凍み大根、しいたけ、竹輪、調味料を加え、水分がなくなるまで煮る。

 つやがほしいと思ったり、こくが足りないと思った時は、あとから少し(小さじ1くらい)油を入れる。

 *このレシピは、民宿で料理を作っているお嫁さんの、めぐ美さんに教えてもらいました。

(新聞「農民」2001.4.30・5.7付)
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2001年5月

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