「農民」記事データベース20010507-491-01

開発輸入 国内法で規制できる

セーフガードをサボリ続けた自民党政治を厳しく追求

吉井英勝(日本共産党衆院議員)さんに聞く

 「開発輸入は規制できる!要は政府のやる気しだい」――開発輸入を好き勝手にやらせ、セーフガードをサボり続けてきた自民党政治。国会でこれを厳しく批判して、開発輸入に対する規制とセーフガード発動を強く求めた日本共産党の吉井英勝衆院議員に話を聞きました。


 WTO協定では、セーフガード発動の要件はたった二つです。輸入量の急増と、それによる国内産業の損害です。ところが政府は、旧通産省が中心になって勝手に作った国内基準を唯一の理由にして発動しないできました。

 なぜ発動しないのかというと、結局、自動車・電機産業のためです。日本の総輸出額の五〇%以上を占める輸出上位三十社のほとんどが自動車・電機関係です。大企業の輸出がやりにくくなるからセーフガードを発動しない、そのためには中小業者や農家が犠牲になっても構わないという発想はけしからんと、論戦してきました。

 開発輸入は、生鮮野菜から、畳表から、繊維から、仏壇から、家具から、いろいろな業種、いろいろな産業分野に及んでいます。

 それに対してセーフガードを発動しなかった政府の責任を追及し、産地の困難な実情を紹介しながら、なぜそうなっているのかを論じて発動の必要性を訴えてきました。

 法律があるのにしない! 開発輸入への規制

 今度、財務金融委員会(三月十四日)で質問したのは、開発輸入に対して日本政府が早い時期に手を打っていれば、産地のこんなに困難な状況は生まれなかったという問題です。外為法二十三条四項(注)には、「わが国経済の円滑な運営に著しい悪影響を及ぼすことになる直接投資の内容の変更または中止を勧告することができる」とあります。

 私がこの外為法の規定を国会で取り上げて、勧告できるはずだと問うと、財務省の国際局長は「ご指摘の通り」と答えました。ところが、この外為法の規定を適用して、変更または中止を勧告した例があるのかと聞くと、「ない」という答え。この外為法にもとづいて、直接輸入が国内産業に悪影響を及ぼす時に中止勧告をやっていれば、国内産業の著しい打撃を食い止めることができたはずです。

 農業や中小企業をつぶすことは、「わが国経済の円滑な運営に悪影響を及ぼすこと」そのものであり、こういう投資、海外進出を現在ある法律で規制できるし、要は政府のやる気しだいなのです。

 法律で開発輸入が規制できるのにしない、WTO協定上、セーフガード発動が可能なのに、わざわざいらない国内基準を作って、発動しないようにしてきた政府の責任は重いと言わざるを得ません。

 勧告できる業種を特定している外国為替令十二条一項と、それを受けた省令には、今のところ農業はありませんが、農業を追加させることが必要です。

 開発輸入に減税の恩恵――委託加工再輸入減税

 繊維分野の開発輸入でもう一つ問題なのは、委託加工再輸入減税です。

 例えば、日本の業者が直接投資で中国に繊維工場を建てたとします。ところが中国製の布は技術的にまだダメだとなると、日本の北陸などの産地からロール状態の生地を素材として持って行きます。それを使って向こうで製縫して、輸入すると、通常の輸入にかかる関税から、輸出した素材に相当する関税をまけてやるという制度です。

 輸入額が百万円、日本から持って行った生地が八十万円だったとすると、通常の関税額が輸入額の一〇%で十万円のところを、素材費分を引いて、関税の負担は二万円でいいということになります。

 対象品目は、織物、生衣類、じゅうたん類、靴下類、インテリア類、機械類です。日本への開発輸入をねらった海外投資には規制をしない、開発輸入されるものには関税をまけてやって、ますます国内産地に打撃を与えています。

 開発輸入は国際競争より日本企業同士の争い

 開発輸入の問題は、日本企業と中国の企業の国際競争ではなくて、日本企業同士の争いです。国内では建前上、最低賃金を守っている日本企業が、海外ではそれを無視して、安い人件費で作ったものを日本に持ち返り、国内の産業が打撃を受けているのです。ユニクロにしても何にしても…。

 マクロ的に見れば、こういうやり方は、中小企業や農業、ものづくり産業をつぶしていきますから、倒産が起り、失業が増加して、国民の所得が減少して、ものを買う力が衰えます。最初は「安いものが入ってきてよかった」と喜んでいた消費者も、消費者は同時に生産者ですから、日本の産地がつぶれてしまったら、消費購買力を失います。今そのやり方をやってデフレスパイラル(悪循環)がひどくなっています。

 海外進出した企業が、その国の労働者の所得を保障する賃金を支払い、賃金を受け取った人が、自分たちが作った製品を買うのなら国際貢献の道でもあるし、アジア全体の発展につながると思います。しかし、日本の資本のねらいは現地の需要を満たすためではなく、相手国の低賃金を利用して日本市場を攻めるためです。

 大企業の活動にルールを作り、守らせる

 こういうやり方に対してきちんとしたルールを大企業に守らせないといけません。そうしたルールを作るという点では、大企業の経営者とも意見が一致します。ある大手プリンターメーカーの会社幹部と懇談する機会がありました。日本のプリンターは現在、世界の九六%のシェアを占めていますが、さらに輸出を増やそうと、外国企業との競争ではなく、日本企業同士の競争で海外に出ているために、信州・諏訪湖畔の下請け業者が潰されています。

 「こんなことしていたら将来的には技術開発力を失うんじゃないですか」と私が聞くと、「まったくその通りです」と認めました。さらに「私たちもこんなやり方で海外に出ることがいいことだとは思いません。しかし、市場競争のなかに置かれているものとしては、わが社一社だけ海外に出るのをやめるというわけにはいかない」と語っていました。大企業といえども一社だけでは抱えている問題を解決できません。政治の力できちんとしたルールを作ることが必要です。

 「悪魔のサイクル」という言葉は、トヨタ自動車の研究をやった野村総研の研究員が初めて使いました。自動車・電機産業が、過密労働と下請けいじめなどによって輸出競争力を強め、その結果、円高になり、また下請けいじめで競争力を強めるという悪循環を重ねて、最後は海外移転と国内産業の空洞化に進んできたということです。財界系のシンクタンクでさえ、そのやり方では解決できないと言っている道を、自民党政治は進んでいます。

 参院選で、自民党政治に農家の審判を

 セーフガードは、三品目で暫定発動し、タオルも調査を開始するというところまできました。これから、いろいろな分野でセーフガードを発動せよという議論が当然のように出てくるでしよう。

 しかし、自民党は、暫定セーフガードで今度の参院選を逃げようとたくらんでいます。そのゴマカシを、農民のみなさんの怒りをぶつけて打ち破ってほしいと思っています。畳表の産地を事実上手遅れに近い状態にしておいて、選挙対策でゴマカすのは許されません。

 直接投資に対する規制をせずに、委託加工再輸入減税で関税をまけてやる、困っていてもなかなかセーフガードを発動しない、十重八十重に地域産業・経済を破壊してきた自民党政治の行き詰まりがはっきりしてきました。そしてまた、農家、中小業者という自分たちの支持者をとことん裏切ってきた自民党ではダメだというのが、国民的な常識になってきています。参院選で自民党政治の継承でなくて、自民党政治を変えることが大事です。

 セーフガード問題は、中小企業、農業など、ものを作る産業をどう守り、地域の経済をどう発展させるのかという問題です。特定の輸出大企業の利益第一ではなくてそれぞれの地域産業中小企業、農業を守り発展させることで、将来的にも日本が持続可能な発展をとげられるような政治に変えていくことが大事だと日本共産党は考えています。


(注) 外国為替及び外国貿易法

第二十三条(対外直接投資)
4 財務大臣は、…対外直接投資が行われた場合には、次に掲げるいずれかの事態を生じ、この法律の目的を達成することが困難になると認められるときに限り、当該対外直接投資の届出をした者に対し、…当該対外直接投資の内容の変更又は中止を勧告することができる。
一 我が国経済の円滑な運営に著しい悪影響を及ぼすことになること。
二 (省略)

(新聞「農民」2001.4.30・5.7付)
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2001年5月

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