――国会に提出された農協改革二法案の内容と問題点組合員自治と民主的運営の後退 (最終回)山本 博史
農協法では、組合設立の自由とその手続きが詳しく定められているにもかかわらず、総合農協を同じ地区内に複数設立することは認められていない。生協では許されている複数設立が、農協ではいたずらな競合を避けるためという理由で、通達によって禁止され、たとえ設立しても知事が認可しない。これは、組合員が脱退して別の総合農協を設立することを事実上不可能にし、「加入脱退の自由」をうたう協同組合原則にも反し、自由な設立を認めている農協法そのものとも相入れない不当な行政介入といえる。 今回の改正案では農協地区の重複を認めることになっているが、関係中央会の合意を条件とし、事実上これまで以上に困難となる。この案は、JA大会決議でいう「地区外の消費者が准組合員となれる条件確保」つまり都市住民を他地区の農協が組合員として組織するのが主なねらいである。国際的にもまれな日本の農協における准組合員制度は、ほかに店舗もないような僻地などで非農家住民の便宜のためなどに設けられたものであり、組合員でありながら事業利用だけを認め、議決権も運営参加権も認めない、組合員参加を重視する協同組合としては異常な例外的制度であり、これを他地区にまで拡大することは、たんに事業拡大のみをねらったものといえる。都市の消費者は十分に権利を発揮できる彼ら自身の協同組合を設立すべきであろう。 農協の合併・解散決議を総代会だけに委ね、組合員投票を不要とする案も、協同組合の組合員参加による民主的運営の大幅後退といえる。 農林中央金庫法の見直しは、全国で「ひとつの金融機関」としてのJAバンクシステムをつくりあげるのが主目的である。新たに追加された目的では、「農協・信連等を会員とする農林漁業者の協同組織の金融機関」と明記した。同時に提案された「農林中央金庫及び特定農業協同組合等による信用事業の再編及び強化に関する法律」(これまでの農林中金・信連統合法を改めた)と重ね合わせることによって、農協金融の再編強化に関する基本方針(自主ルール)の策定を行い、これまで中央会を通してのみ行ってきた農協・信連の信用事業に対する指導も中金が実行できることとした。この自主ルールは、金融庁が行う「早期是正措置」よりも早い段階で破綻を未然防止するためのもので、このルール違反組合にはJAバンクメンバーからの除名(実際には農協の信用事業実施権限を信連や近隣の農協に譲渡させる)などの措置をとることになる。 農林中金は、こうした強力な指導を行うため、信連・中央会・行政などの協力を得て、全国横断的な経営のモニタリングを実施、情報を農林中金に集中する。つまり、協同組織金融機関と明記しながら、まったく中央集権的で除名を含む強権的な農協への指導が実行されることとなる。こうして農林中金は、JAバンクにおける文字通りの本店となる。しかも、これまで農林漁業の関連産業に限定されていた農林中金の融資先が拡大され、この点でも一般商業銀行にますます接近することとなる。これが今回の「改正」案である。
(新聞「農民」2001.4.16付)
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[2001年4月]
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