SBS輸入米と中国黒竜江省の米戦略村田武氏の報告要旨村田武氏(九州大学大学院農学研究院教授)が生消研シンポで報告した「SBS輸入米と中国黒竜江省の米戦略」の要旨を紹介します。
ウルグアイ・ラウンド農業合意によって一九九五年から輸入されているミニマム・アクセス米は、主に加工用だが、SBS(同時売買契約)米は主食用に年間十二万トン輸入され、当初米国産が中心であったが、一昨年から中国産が米国産を圧倒するようになった。今年に入ると、三菱商事など大手商社は米輸入戦略をはっきりと転換し、米国での契約栽培量を減らして中国に切り替える動きが顕著になっていると報道されている。 私は昨年七月下旬、中国東北・黒竜江省の米主産地である三江平原の奥地にある二つの国営農場(新華農場と友誼農場)を訪ね、SBS米の生産・加工を視察した。
中国最大のジャポニカ米産地黒竜江省で生産される米はすべてジャポニカ種である。中国の経済発展と所得向上で品質の良い食糧への需要が高まり、ジャポニカ米の生産は一九九〇年代に増加。品質評価の高い東北産米の増産は、国内需要の増加だけでなく、わが国の一九九三(平成五)年の大凶作による緊急輸入が刺激となった。黒竜江省ではわずか五年間に水稲作付面積が百五十万ヘクタールに倍増、生産量も籾で四百十万トンから八百九十万トンになった。今では中国最大のジャポニカ米産地である。ところが、米生産の倍増は大量の過剰在庫を生み出した。その結果、米を保護価格で買い上げる政府の財政を圧迫し、保護価格の引き下げで、稲作による所得上昇を期待した農家は、わずか数年で裏切られることになりつつある。米にかけた夢は一挙にしぼみつつある。 こうした米をめぐる情勢の急展開のもとで、新華農場はSBS米輸出のために必死で模索しているようだ。食糧法下のわが国の米価暴落を凌駕する米価暴落に驚くとともに、黒竜江省での開田に火をつけたわが国の緊急輸入の罪深さを感じずにはおれなかった。 対日輸出に大きな関心黒竜江省農墾総局は躍起になって「売れる」米作りを傘下の国有農場に奨励。とりわけわが国のミニマム・アクセス米SBSの輸入に大きな関心を寄せている。同局の期待を担って果敢に良食味米の生産と加工・輸出販売に取り組んでいるのが新華農場である。同農場は一九四九年創立で、水利に恵まれ、二・八万ヘクタールの半分一・五万ヘクタールが水田である。一九八〇年代半ば以降の中国改革開放政策のもとで、国有農場の農地は、従来の集団農業ではなく、生産隊(ほぼ集落に匹敵)と農家との長期契約によって個々の農家(従来の農業労働者家族)に請け負わせる方法で、生産意欲を引き出す方式に転換している。 新華農場は一九九七年十二月、わが国の総合商社・ニチメン(二五%出資)と合弁精米工場「新綿精米有限公司」を設立。九八年産米から創業を開始し、精米生産能力は年産二万五千トン、「サタケ」の籾摺機や精米機による精米の品質は、かつて緊急輸入された中国米の品質の低さとはまったく比べものにならない高いレベルに達している。 というのも、栽培品種が「空育131」「きらら397」など日本品種であり、さらに農墾総局が設置した稲作研究所で改良した「新引稲(コシヒカリ)1号」というかなりの良食味品種が、わが国の寒冷地稲作技術の指導と普及のもとで栽培されているからである。 さらに、稲作農家千三百戸(平均規模は十二ヘクタール)には減農薬栽培を求め、中国政府の認証基準に合格した「緑色食品」として真空包装米を出荷する。中国国内で販売する場合には、精米一キログラム四元と普通米の二倍の価格で売れる米だという。対日輸出は九八年六千七百トン、九九年六千四百トンに達しており、合弁精米会社にとっては国内販売よりずっと高い収益率だということであった。
(新聞「農民」2001.4.9付)
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[2001年4月]
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