「農民」記事データベース20010402-487-03

暫定発動は世界の常識、損害起きても「慎重調査」は世界の非常識


 大臣が「暫定セーフガード発動の腹を固めた」と言っても、農水・財務・経産省の官僚たちは「調査中。なんとも言えない」の繰り返し。しかし「調査中」であっても、暫定措置が発動できることは、WTO協定からも明々白々。

 実際、WTO協定後、農産物のセーフガードは十二件発動されていますが、そのうち九件が暫定セーフガードを発動しており、暫定発動は世界の常識(表1)。「調査中」を理由に、暫定発動さえも引き延ばす日本政府の姿勢は異常です。

表1 暫定発動は世界の常識 12品目中9品目で
発動国
対象品目
暫定発動
本格発動
韓国 乳製品
なし
ニンニク
アメリカ 小麦グルテン
なし
小羊肉
なし
チェコ 砂糖
ラトビア 豚肉
チリ 小麦等
乳製品
調査中
スロベニア 豚肉
調査中
スロバキア 豚肉
なし
エジプト 乳製品
調査中
モロッコ バナナ
調査中
 ○は発動〔財務省関税局資料〕

「慎重な調査」とは「世界のどの国もやったことがない証拠集め」

 いつまでたっても「調査中」を繰り返し「被害が輸入増大によるものか、因果関係を慎重に調査して“正しい”セーフガードを発動したい」というのが日本政府の態度。しかし“重大な被害が起きても慎重に”というやり方は、世界的に見ても異常で、非常識きわまるもの。

 農産物のセーフガード発動十二品目中、アメリカ二品目、韓国一品目に関係国からクレームがつき、WTO内の小委員会で審査されましたが、すべてが「協定違反」のクロ裁定(表2)。その理由は、輸入増大と損害の因果関係の「立証が不十分」というもの。

 
表2 証拠不十分でもセーフガード発動
発動国
対象品目
発動時期
紛争処理状況
現状
アメリカ 小羊肉 99.7.22 WTO小委員会〔00.12.21)「因果関係が示されていない」として協定違反の裁定 続行
アメリカ 小麦グルテン 98.6.1 WTO小委員会(00.7.31)、上級委員会(00.12.22)「検証不十分」として協定違反の裁定 続行
韓国 乳製品 97.3.7 WTO小委員会(99.6.21)、上級委員会(99.12.14)「立証不十分」として協定違反の裁定を出し、2000年1月12日に最終採択 撤回
00.5
〔財務省関税局資料〕

 韓国は裁定の採択後に乳製品のセーフガードを撤回しましたが、発動から三年近く輸入数量 制限を実施しました。一方、アメリカは、いまなお子羊肉と小麦グルテンの輸入数量 制限を続行中です。

 “敗訴”を覚悟してセーフガードを発動し、最終決定が出たら撤回する――これが世界の常識です。

 これに対して、日本の農水省いわく「WTOで訴えられて勝訴した国はない。だから慎重に因果関係を立証するのだ」(三月二十二日の交渉で)。

 関係団体の要請を受けて被害をおさえるためにセーフガードを発動する韓国やアメリカと、被害が目の前で起きていても「慎重に調査中」で動こうともしない日本政府。国民と農民の立場から見て、どっちが逆立ちしているか、明らかです。

 世界中でどの国もやったことがない「証拠集め」にうつつを抜かすのをやめ、機敏にセーフガードを発動すべきです。


暫定セーフガード

 発動が遅れれば重大な損害がありうる場合、正式の調査が終わるのを待たずに発動できる。期限は二百日以内。本格的なセーフガードの発動に引き継がれることが前提。(WTOセーフガード協定第六条)

(新聞「農民」2001.4.2付)
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2001年4月

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