まだ見ぬ友小林節夫
もう十年も前だろうか。徳島県食健連の結成総会のときだった。地元の農民連の仲間が発言(多分、減反や牛肉・オレンジの自由化のことだった)したとき、会場の後ろの方で「日本の農民がんばれ!」と叫ぶ声が聞こえた。ただの大きな声ではなく、温かさと連帯のこもった、じーんと来るものがあった。 あとで県農民連松本会長に聞くと、高校の先生だという。その時はスケジュールがいっぱいでお会いすることもできなかった。 それから年賀状のやりとりが始まった。毎年、「いつか一杯やりましょう」と交わしたがついに果たさずに、私は田舎へ引き揚げてしまった。ひょっとすると、一度も会わない「まだ見ぬ友」で終わるのかも知れない。 その一方で、その昔、本居宣長が一夜、松坂で賀茂真渕に会って教えを受け、ついに師弟の間柄になったという教科書の「松坂の一夜」を思い出し、それに因めば、生涯会ったこともない「まだ見ぬ友」もあってもいいのかも知れない――とも思う。 でも、やっぱりいつかは先生と会いたい。多くを語らなくてもいい、草の上に腰を下ろして吉野川第十堰を眺めるだけでいい、お茶を飲んでいるだけでもいい――そんなことを考えていると、なんだか自分が豊かになったような気がする。農民運動はいい友だちをつくってくれる。
(新聞「農民」2001.3.5付)
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[2001年3月]
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