新連載信州のおばあちゃんと“茶のみ”吉田文子「野菜を食べようもっとおいしく」を連載している吉田文子です。私が十七年間住んでいた長野県は、「お茶のみ」が盛んで、お漬物、手作りの茶菓子、煮物などをお茶の友に、気軽に人を招く暖かい土地柄です。用事で立ち寄ったお宅では、おばあちゃんが畑で作ったトマトやナスなどを材料にした、おいしい「お茶のこ」をたくさん出してもらいお茶のみをしました。「あるもの」を上手に使って料理や保存食を作ることにかけては、私のような若輩者はおばあちゃんの足元にも及びません。信州のおばあちゃんに、聞いた生活に密着した工夫の数々と、楽しいお茶のみの様子を紹介させていただきます。
長谷村の仲良し三姉妹長野県上伊那郡長谷村は、甲斐駒ケ岳、仙丈ケ岳などの南アルプス登山口として有名な村。伊藤とみさん(81)、中山しづえさん(76)の姉妹と、弟嫁の西村ひさこさん(65)の三人は長谷村に住む仲良し姉妹です。「遊びくれば、話はずんで、はずんでさあ。帰るつもりが夜の二時までもしゃべってるだよ。三人で一緒にお風呂にまで入って。一時間も入ったにー。何をそんなにしゃべることあるんかって家で聞かれるけんど、あるんだわなぁー、それが」 こたつの上には今日のお茶のこ、「きのこのしょうゆあえ」、「うめぇわかめ」「手作りコンニャクのくるみ味噌かけ」、「かぼちゃサラダ」、「貝ひものうま煮」、「セロリのあえもの」、忘れちゃならない定番の「野沢菜漬け」。そして甘いものとして「干し柿」、「フルーツ寒天」、「杏仁豆腐」などがズラリ並んでいます。テーブル一杯に並んだお茶のこを、めいめい自由に「おてしょ」(小皿)に取って箸で食べながら、お茶がなくなったら、わんこソバのように次々と注ぎ足して、たっぷりいただくのが信州のお茶のみスタイルです。 これは昼ご飯ではありません。あくまで「お茶」です。話がはずんで時間が長くなり「じゃ、ご飯にしちまうずら」という時には、ご飯またはソバのみ簡単に出すだけでOKです。何しろこれだけおかずが並んでいるのですから。今回は、中山さんが「クリタケご飯」を炊いてくれて、西村さんが「手打ちソバ」を作ってくれました。 お茶のみに呼ばれる方も何品か持参してきて、残れば帰りのおみやげになります。お惣菜交換をして、夜のおかずに食べたり、翌日のお弁当のおかずになったりします。
ストーブの上で煮豆話が盛り上がっているうちに、ストーブにかけてあった「しもささげ」が煮えて、砂糖を加えて完成しました。「しもささげはいいよー。さやで食べてもうまいし、煮てもうまいだで。豆煮るときゃー五合くらいいっぺんに煮るなあ。ちょっとばか煮るってことはないだよ。冷凍でとっといて食べるに」中山さんのお宅では、裏でほろほろ鳥を飼っており、野菜や豊富な山菜・きのこだけでなく、卵や肉まで自給自足しています。 冬を越した大根やかぼちゃがますます甘くおいしくなるという話を聞き、野菜というと何でも採れたて新鮮がおいしくていいんだと思ってきましたが、そうではないことを知りました。 冬の間もスーパーでは途切れなく、どんな野菜も揃っていますが、採れたて野菜が途切れるからといって輸入に頼る今の日本の食生活のあり方を思うと、何とも複雑でやりきれない気持ちになりました。
レシピ「うめぇわかめ」の作り方塩漬けわかめを戻し、細切りキュウリを加えて梅酢であえる(梅酢は梅一キロを氷砂糖一キロと酢一升で漬けた「梅の甘酢漬け」の汁)。 「かぼちゃサラダ」の作り方 かぼちゃを塩一つまみ入れたお湯で茹でて、スライスたまねぎ、マヨネーズを乗せる。「ハクシャク」という品種のかぼちゃは、皮に腐りが入らず春までもつ。しかも冬を越すと、甘味が出てますますおいしくなる。 「お蕎麦の辛つゆ」 味噌を魚焼きで焼いて、焼き味噌を作る。大根をすりおろして汁を搾った中に焼き味噌を溶かし、きざみ葱を加える。凍みる前に収穫して土の中で保存しておいた大根はびっくりするくらい甘味があり、みりんや砂糖で甘味を加える必要がない。
(新聞「農民」2001.3.5付)
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[2001年3月]
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