農民連十三回大会での発言WTO改定は農民と消費者共通の要求岩手県農民連 浅野奈緒子
私はつい先日農民連に加入し、今回初めて大会に参加しました。私は岩手県二戸市にある山あいの小さな家畜診療所で、獣医師として働いています。 そして毎日牛たちや農家の方々とともに暮らしながら、農業のすばらしさを実感すると同時に、農業の厳しい現実を目の当たりにし、自分自身の仕事の中にある大きな矛盾に苦しみ続けてきました。 それは、世界で八億人以上の人々が飢餓で苦しんでいるなかで、本来人間が食べることのできる穀物を家畜に多給する畜産は、社会的に問題があるのではないかということです。日本政府は、自給粗飼料に立脚しない加工型畜産を、戦後一貫して選択的に拡大してきました。しかしこの政策によって畜産農家にもたらされたものは、規模拡大にともなう多額の負債と、土地に還元できなくなってしまった大量のふん尿問題であり、一生懸命に働いてきた畜産農家は決して豊かにはなっていない、という現実でした。
WTO変えたいと国際シンポに私は「農業、畜産の抱える問題の根本を変えるのは、WTO農業協定を改定して公平な貿易ルールをつくる以外にない。なんとしてもWTOを変えたい」という一心で昨年二月、東京で行われたWTO国際シンポジウムに参加しました。シンポはすばらしい熱気にあふれたものでしたが、その熱気にたった一人包まれたとき、私は大変な違和感があったのです。それは岩手でWTOという言葉すら知らず、一生懸命働いているたくさんの畜産農家の方々との日常をおきざりにして、東京へ一人で抜け出してきてしまったような、そんな違和感でした。 そんなとき、大会の最後にパネリストのアントニオ・オノラティーさんが言った、「レジスタンス運動は、いつも大きな視野をもった、小さなグループから始まった。地域の小さな行動が、あなたたちが思う以上に大きな力をもっている。地域の小さな行動が、国に、世界に広がっていくのですよ」という言葉に、本当に励まされました。「ああ、小さな行動でいいんだ」、なんとしても「WTOを変えられるというこの確信」を地域のみんなに伝えよう、そう思いました。
つかんだ展望地域で伝えようと私は岩手に帰って、農業、食料、環境問題を、地域と世界の共通の問題として生産者と消費者がともに考え実践していこうと、新たなネットワークを立ち上げ、WTO国際シンポジウム報告会を地元の小さな公民舘で行ってきました。昨年四月からのべ六回、参加者は約二百人にのぼりました。私は、聞きに来て下さった方々が、私たちの農業や食べ物とWTOが、どう密接につながっているかがわかるように、そして私たちの抱える矛盾の根源には、利潤第一主義の体制があるということを、強く感じてくださるようにしたいと考え、報告してきました。 先日、私たちの仲間はこう言いました。「農民は、黙って静かに農業を続けていくという選択肢はなくなった。“やめるか”“たたかうか”のこの二つの選択肢しか今はないんだ」。 私は、いつも「知は力」ということを実感しています。「農民が誇りと確信をもって活動していく、そのためには私たちは、社会の矛盾の本質がどこにあるかを、農民とともに学ばなければならない」、そのように私たちは実感しています。
地域の農民の力集めるため私も私たちのネットワークは、地域で自然発生的に生まれましたが、農民連はこのような人々と手をつないでやっていく可能性が大きく広がっていると思います。それは、「WTO改正」は公正な貿易ルールを求める農民と消費者の、共通の“切実な”要求だからです。私は今回、農民ではないけれども農民連に加入しました。私は、地域の広範な農民を農民連に結集し、広範な消費者とともに農民運動を展開していくために、今後、全力を尽くしたいと思っています。
(新聞「農民」2001.2.12付)
|
[2001年2月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224
Copyright(c)1998-2001, 農民運動全国連合会