税金の申告「農業所得標準」廃止から収支による実額計算に移行税金の申告に当たってこれまでの農業所得標準から収支による実額計算に移るという方針が全国で実施されています。早いところでは昨年度から、遅いところでも再来年度から段階的に農業所得標準が廃止されます。
一、「農業所得標準廃止」ってどういうこと税務署はJAの生産部会や市町村単位に収支計算の説明会を開いています。こうした状況のもとで農民の立場に立って組織的に取り組める農民連はまさに出番です。まず税務署がどう説明しているのか、その内容と参加した農民がどう反応しているかを紹介します。
税務署の説明の内容税務署の説明の主な点は次の通りです。(1)いままで行ってきた面積課税を収入金額ごとに段階的に廃止し、収支による実額計算に移行する。 (2)収支計算でやれない者、収入金額が一定額より低い者は、税務署が作った「経費目安割合」(所得率)で計算する。 (3)「経費目安割合」は作目ごとに作るが、実際の計算では、その農家の収入金額で一番多い作目に総収入金額を当てはめて計算する。 (4)「経費目安割合」は、青色申告者の過去三カ年分の申告実績をもとに県別に算出する。この中には標準外経費も含む(この点は国税局によって異なる)。 (5)「経費目安割合」には、中山間地、離島など条件不利地域の特例は設けない。 (6)「経費目安割合」に赤字はない。必ず黒字になる。 以上の内容から、農業所得標準廃止が、全農家規模での大増税になることは間違いないでしょう。
説明聞いた農民の声「いくら聞いてもわからない」「青色申告をやれということだろう」「農家をやめろということだろう」。説明会が終わってからのロビーには、参加者のこんな苦悩の声があふれていました。
農家への影響は農家の約八〇%は、長年役場で他人まかせの申告をしてきています。しかも高齢者が多いなかで、いきなり「収支計算で」と言われても対応できない人が続出する可能性があります。おのずと「経費目安割合」に頼らざるを得ませんが、これがクセ者です。「経費目安割合」は、複合経営や地域による条件の違いを認めず、赤字も認めません。青色申告者の実績を基準にした高い所得率ですべての農家の所得を算出するので、税額は高くなります。 面積による課税はなくなりますから、収支計算にしろ「経費目安割合」にしろ、収入金額だけは明らかにしなければなりません。こうなると、税務調査も、春の申告時の金額との差額だけで、三年から五年に及ぶ追徴課税も大規模に行われるようになるでしょう。
二、いっそう切実になる農家の税金要求農家にとって最高の税負担は国保税で、多くの自治体の最高額は五十三万円です。これに加えて介護保険料(税)が最高額七万円ですから、一番多い人で年間六十万円の負担になります。米価の暴落によって、平成十一年度産米の米価水準でも、全国の農家の八八%が赤字です。兼業農家であれば、他の所得と損益通算すれば税金を取り戻すことが可能です。 「重税をなんとかしてほしい」という農家の要求は切実です。こうした状況の中で、農業所得標準が廃止されますから、農家の税金に対する要求は、私たちが働きかければいくらでも引き出すことが可能です。
三、農民連の出番、早い取り組みが成否を決める農民連ならではの取り組み一人ひとりの具体的な実利の要求に応えてこそ、組織は前進します。農業・農民関係団体の中で、農業所得標準廃止という事態に組織的に対応できるのは農民連だけです。それは、誰でも簡単に収支計算ができる“すぐれモノ”の税金計算ノートがあり、“みんなが先生、みんなが生徒”という仲間の協力体制があるからです。さらに、税法にもとづいて税務署にきちっとものが言えるという、農民連ならではの全国の運動の蓄積があります。
申告期前に出足早く開始を実務をともなう税金闘争は、申告期に入ってからでは規模の大きな手立ては打てません。年内に取り組みの流れを作り、全市町村、集落単位の税金相談会を出足早く始めましょう。
班・支部の寄合いを先行農業所得標準廃止は、農業つぶし政策の税制版で、農民から生産意欲を奪う危険なものです。その内容について親戚や生産の仲間、集落のつながり、会員の結びつきなどを生かして話し合い、仲間づくりのイメージを広げましょう。その際、農民連が全国で取り組んでいる「もの作り」運動を地域でどう具体化するか、生産点での話し合いを必ず行い、元気の出る寄り合いにしましょう。
(新聞「農民」2000.12.25付)
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[2000年12月]
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