本の紹介
生産者が意欲持てる価格保障政策を力説『農政転換と価格・所得政策』村田武・三島徳三編WTOと新農基法のもとで、次々に廃止される価格保障制度。このままでは、日本は“価格保障のない二十一世紀”に突入しますが、本書では、こういう動きにストップをかけようと、十一人の研究者がヨーロッパとアメリカ、韓国、そして日本の価格政策の動向を最新のデータをもとに分析し「農業者が意欲的に生産に取り組める」価格保障政策の重要性を力説しています。第一章〜第四章では欧米と韓国の最新動向が分析され、“日本編”の最初の第五章で価格保障のそもそも論、第六〜十章で米、麦・大豆、牛乳、食肉の各論、第十一章では「農産物価格・所得政策の再構築の方向」が検討されています。 とくに興味深かった点をいくつか紹介すると――。 *アメリカの直接支払い(価格暴落に対する補てん)が三兆円強に達しています。鈴木宣弘九州大助教授は、こういうやり方がWTO上合法として許されるならば「農家保護はずいぶん簡単なことである。わが国も農家への補助金支給の名目を巧妙に考えて、米国のような対応を参考にする必要があろう」と述べ、「米国農業政策のしたたかさ」と日本政府のだらしなさを対比しています(第三章)。 *韓国の分析でも同じで「糧穀管理のための支出を年々縮小させながらも(米の)需給と価格の調整機能維持に苦心を払っている」韓国政府と、「自らがはたすべき需給調整機能さえも放棄している」日本政府との対比が、資料や政策動向の紹介を通じて鮮明にされています(第四章)。 *米の関税化、新農基法の「制定過程で強まった政府・自民党・農協中央による『三者合意』の体制」に象徴される「コーポラティズム」(団体協調主義)のもとで「政府・与党は農民の政治的離反をあまり顧慮することなく、価格政策の縮小再編ができるようになった」(第五章)――という指摘から、私たちは「たたかう農民連を強く大きく」というメッセージを受け取ることができるでしょう。 (真嶋)(筑波書房 三千五百円)
(新聞「農民」2000.12.11付)
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[2000年12月]
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