コメ豊作・価格下落の波紋NHKテレビ―広がる怒りの波紋問われる公共放送の資質
NHKテレビは十月二十五日、クローズアップ現代「コメ豊作・価格下落の波紋」と題した番組を放送しました。 番組は、外米の輸入には一切ふれず、適正在庫量の二倍、二百八十万トンの米が余っていることが暴落の原因と報道。「規模拡大した農家がまいってしまう」など価格暴落に苦しむ北海道の農家の声を伝えましたが、中村靖彦NHK解説委員が「米もリンゴやホウレンソウといっしょになったんですよ。価格は市場原理による。リスクを考えて経営する時代。発想の転換を」と発言。規模拡大を言いながら減反を強化する矛盾についても「経営感覚を磨け」「意識改革をはかれ」と繰り返し、米余りの原因の一つに「サラリーマン農家の存在」をあげました。こうした報道に各地から怒りの声が届いています。
事実に反した許しがたい解説この放送は、単に余剰米の量や価格の暴落を客観的ニュースとして流したものと違い、中村解説委員が、コメ余りの原因や営農形態にまでたち入って、事実に反した解説をしたことに許しがたい怒りを覚えた。二百八十万トンという余剰米の数値を示すならば、九五年以降現在までどれだけの外米が輸入されたのか、その数値をも合わせて報道するのが、受信料に依存している報道機関として、最小限の義務ではないか。 多くの国が食糧不足で苦しんでいるなかで、自国の農民には減反を押しつけながら外米を輸入する政策をどう考えているのか。農産物の輸入洪水のなかで必死に農業を支えている農民に対して「経営感覚」や「意識改革」を説教する前に、銀行や保険会社、「そごう」などの「経営感覚」を解説し、不始末を税金で救済するような政府にこそ「意識改革」を迫るのが解説者の仕事ではないのか。 人間が生命を維持するのに最も大切な食料と環境に関わる農業問題について論じるときには、少なくとも将来、日本国民が受けるであろうリスクと便益の等式くらいは念頭に置いて報道してほしい。 (奈良県 大江卓司)
農家の実態からかけ離れた感覚NHKクローズアップ現代の内容が納得できない。ミニマムアクセス米については全くふれず、国内の作付が多くて過剰になるとか、政府の助成頼りの農家に問題ありとか、兼業農家の減反は多くてもよいのではないかとか、農家の実態を理解していると思えない。公共放送としてあまりに政府寄りで、農家として理解できるものではない。(岡山県 石原博)
異議あり! “盗っ人”猛々しい論理NHK・中村靖彦解説米価暴落の一因は市場原理の導入、つまり米の買いたたきを野放図に認めたことにある。これをやったのは政府だが、新農業基本法を準備した「食料・農業・農村基本問題調査会」の委員を務めた中村氏は、そのお先棒をかついだ一人だ。
市場原理導入で先棒かつぐ氏はあちこちで調査会の内幕を吹聴している。たとえば市場原理を導入し、兼業農家を農政の対象から排除して一部の大規模層に施策を集中することを「提案」し「はっきり書き込むことができた」と自慢している(『農業と経済』98年12月号など)。まるで自分が答申を「書いた」と言わんばかりだ。野口悠紀雄・東大教授は頼まれもしないのに審議会の取りまとめ役を買って出て「政府の既定方針をそのまま認める儀式」の片棒をかつぐ「大物ジャーナリスト」などのことを「まとめ屋」と軽蔑している。まるで中村氏のことのようだ。 中村氏が書いたのか、官僚が書いたものを弁護しているのか、事情はべールの中だ。しかし市場原理が強まり、米価は暴落の一途をたどっていることだけは事実だ。その責任を棚に上げ農民に「意識改革」を迫るのは、盗っ人猛々しい。
ジャーナリストの風上におけぬさらに中村氏は次のように述べている。「地方へ行ったときに(米価が)どこまで下がるんだという質問がよく出るんです。私は『生産費がどうこうなんて誰も考えていない…だからどこまで下がるんだという被害者意識はやめたほうがいい』と言ったんです」(同前) 政府の審議会に巣くって、そこに垂れ流される資料をネタにし、農民の痛みを取材するどころか、「被害者意識はやめたほうがいい」と説教する――これで「ジャーナリスト」なのか?
「意識改革」が必要なのは!?蛇足。あまり他人様の財布のことなど言いたくないが、番組で、米価暴落によって所得が六十六万円に下がると嘆いている北海道・空知の農民に「意識改革をはかれ」と説教する中村氏の月収は百万円は下らないだろう(一九三五年生まれの中村氏は現在、嘱託扱いとのこと。NHKに問い合わせたが、なぜか給与を教えてくれなかった。しかしNHKの部長などを務めた氏の給与が年収千二百万円の政府本省課長クラス以下ということはないだろう)。政府の提灯持ち、取材の裏付けもない口先だけの気楽な解説を月に何回かやってこういう収入! あなたの年収か年金(十二か月分)が六十六万円に下がったら「意識改革」しますかね?中村さん。 (M)
(新聞「農民」2000.11.27付)
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[2000年11月]
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