「農民」記事データベース20001120-471-10

侵略戦争への厳しい反省こそ

中国の農業を垣間見て

小林節夫


〔その4=最終回〕山東省・青島港見学

全ての道は、青島港に通ずる

 農村地帯で惜しげもなく農地がつぶされて広い道路がつくられている状况が目につきました。それが合流する有料道路や高速道路が中国最大のコンテナ積出港・青島港につながっているのでした。

 青島港の展望台から林立するガントリークレーンだけを見ていると、神戸港や横浜港とどんなに直結しているか、ひしひしと伝わって来ました。

 いいあんばいに案内してくれる人が顔がきく人だったので、普通ではとうてい近づけない所まで入れましたが、コンテナを開けて見ることもできません。

 大きなコンテナを載せたトラックがはげしく行き交い、ガントリークレーンが休みなく片端から巨大なコンテナを一分間に一つくらいのスピートで積み込んでいく情景(写真)を見ていると、生鮮野菜や冷凍野菜、あるいは半調理ずみのおかずなどが、こういう巨大な仕掛けで洪水のように輸入されていることがリアルに迫って来ます。今後ますます、生産・流通・輸送などすべての面で強化されるのだという思いがひしひしと伝わってきます。

 農水省は東南アジア諸国からも、ああいう調子で輸入する機構をつくろうとして、ベトナムやインドネシアへ調査団を派遣し「援助だ」「調査だ」といって、大商社などの農産物のリレー的輸入の基盤を整備してやっているのかと思い、多国籍企業・大商社による農産物の輸入はまだまだ序の口だと思いました。

 初の訪中国で、しかもほんの点を見ただけでしたが、かなり本質的な問題が見えたように思いました。この連載はリアルに見て率直に書きましたが、しかし、それは日本農業を守るという課題から、事実を直視したもので、決して反中国のキャンペーンのためではありません。誤解のないことを祈ります。

 

知らなかったですまぬ「満蒙開拓」

 私が恐れるのは、当面する輸入農産物とたたかうことがそのまま日中の対立だと誤解されることです。

 その意味で日本の中国侵略の歴史を振り返ることは重要だと思います。農民にとっては重い歴史があります。昭和初期の大不况から始まった満蒙開拓という暗い歴史です。

 それは、戦前、旧満州(現中国東北部)の農民の土地と家を取り上げて日本の農民が移り住み、それを「開拓」と称して強行した国策のことです。「当時の日本の農民は本質を知らなかったのだから仕方がない」という人もいます。また、終戦のときの混乱と苦難だけを回顧する傾向もなしとしません。

 しかし、土地と家を奪われてどの様にして中国の農民が暮らしてゆけるでしょうか。自分たちの田畑が砲弾と軍靴に荒らされ、精根こめた作物が踏みにじられる無残さを自分の身に引き換えて考えれば分かるでしょう。

 ところが、日本では「日本は国土が狭い。だから中国東北部の農民を追い払って日本の農民を移民させればいい」という理屈を、東大や京大の教授が平然と陳述し、それが実行に移されたのでした。

 これだけの重い事実を、「日本の農民は知らなかったんだから仕方がない」とすまされるでしょうか。

 そういう態度で両国の平和と共存が望めるわけがありません。中国に対する侵略がどんなに大きな罪悪であったことか。それなのに「双方の農民が被害者だった」という程度の認識でいいのでしょうか。今日私たちは日本の中国侵略の誤りを率直に詫び、再びその過ちを繰り返さない決意と立場を明確にするのは当然ではないでしょうか。

平和と共存の原則を見失わずに

 この手記はこれで最終回ですが、農産物の貿易問題を考えるとき、多国籍企業のあくどい戦略と手法が介在していることをしっかりおさえ、見失わない努力がないと、中国の農民との対立しか見えなくなるのではないでしょうか。

 「経済のグローバル化」(経済の地球規模化)は二十一世紀の問題ですが、まさにこれによって、多国籍企業が自らの利益を優先し、一国の食料主権が侵害され、農業が危機に追い込まれています。そういう立場から見ると、直面する日本農業を守る私たちの運動と「平和と共存」は矛盾しないでしょう。

 戦前の農民運動の本流は断固として中国侵略に反対しました。その伝統を継ごうという農民運動が、侵略戦争の事実を直視し、食料・農業問題を考えるときも二千年来の中国との友好の歴史をふり返り、二十一世紀を前に永遠の平和的共存・友好を見つめる視点を大事にするのは当然ではないでしょうか。

(おわり)

(新聞「農民」2000.11.20付)
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2000年11月

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