「農民」記事データベース20001120-471-03

「セーフガード発動」はすぐ可能

「厳しい手続きが壁…」は発動サボる口実


 セーフガード発動を求める意見書を採択した地方議会が七百近く、全体の二割を超えています。農業関連では、ウルグアイ・ラウンド中の米輸入自由化反対の意見書に次ぐ勢いで、野菜やシイタケ、果実のセーフガード発動が切実な要求であることを示しています。

 農民連は今春の野菜暴落以来、セーフガード発動を強く求めてきましたが、九月に入って全国の農協系統が発動を要求し、新たな局面を迎えています。

運動に水かけず共同で実現へ

 私たちは、政府・与党との関係や団体の枠を超えて文字通り「業界」ぐるみでセーフガード発動のための共同を強める決意です。

 同時に、切実な要求に押されてセーフガード発動を求める取り組みを開始したものの、運動に水をかけるような宣伝が行われていることも率直に指摘しなければなりません。

 たとえば全中の「食料・農業・農村基本対策推進本部」が十月に発行した日本農業新聞号外では――。

 「(損害の)証明には時間がかかり、腐りやすい農産物は対応できません。また、代償措置を求められます」と述べ、こういう「厳しい手続きが壁」になって、実際に発動したのはアメリカや韓国なと「六か国だけ」だと言っています。

 そして「輸入を食い止めるには、関税の引き上げや輸入数量制限の実施がどうしても必要で、セーフガードの発動要件を改善しなければなりません」と結論づけています。

 私たちも、全中が要求しているセーフガードの改善は必要だと考えます。しかし、現在の輸入急増と価格暴落という事態を解決するうえでの焦点は「改善」ではなく、政府がただちに「発動」することです。

 第一に、損害の「証明に時間がかかる」といいますが、日本政府の「証明手続き」は異常に複雑で、WTOが求めてもいない要件を持ち込んでいます。

 (1)WTO協定では「関連業界の損害」があればセーフガードを発動できると言っているだけなのに、大げさに「国民経済上緊急の必要性」があるかないかを発動要件に加えている、(2)調査も、まず農水省が損害の「十分な証拠」を集めたうえで、大蔵・通産と協議して正式の「調査」を行うかどうかを決め、WTOに通報してやっと「調査」に乗り出す――というスローモーぶり。これでは発動をさぼるための「調査」といわれても仕方がないでしょう。

「暫定セーフガード」の発動を

 第二に、政府も全中も取り上げることを避けていますが、WTOセーフガード協定には「暫定セーフガード」(第六条)の規定があります。これは「調査…を行っている余裕のない事態、すなわち、遅延すれば回復しがたい損害を与えるような危機的事態が存在する場合に…本来求められている手続きを経ずに暫定的にセーフガードを発動できる」ものです(外務省『解説WTO協定』)。

 外務省はこういう事態の例として、わざわざ「季節的な農産物の過剰輸入」をあげていますが、これでも「腐りやすい農産物は対応できない」というのでしょうか。要は、政府が機敏にセーフガードを発動することこそが必要なのです。現に、韓国のニンニク、ラトビアなどの豚肉にかかわるセーフガードは暫定措置として発動され、一般セーフガードに移行しています。

 第三に「六か国」しか発動していないから、発動が困難であるかのようにいうのも、おかしな議論です。

 農産物輸出大国であり“自由貿易の代表選手”であるかのように振る舞っているアメリカでさえセーフガードを発動しており、別掲のように、韓国は農業団体の希望をよく聞いて発動しています。

 “六か国しかない”などと遠慮せずに、自主性を発揮して国内産業を守ること――いま必要なのは、こういう確固たる姿勢です。

 [暫定セーフガードとは?]

 暫定セーフガードの発動期間は二百日、関税引き上げが「原則」(ただし「数量制限措置をとることも排除されていない」[外務省・解説書])。また、暫定セーフガードは一般セーフガードの一部として位置づけられ、暫定措置をとりながら関係国との協議を行う。

(新聞「農民」2000.11.20付)
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2000年11月

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