「農民」記事データベース20001106-469-08

中国の農業を垣間見て

小林節夫


〔その2〕山東省莱陽市の輸出野菜の生産から加工まで

 十月二日、山東省・莱陽(らいよう)市の辛国君農業局長らが概況を説明し、加工工場や生産の現場のことは担当官が案内してくれました。そこでの印象的な点は――

輸出冷凍野菜工場を見て…

 (1)日本の進出企業と行政との連携

 サトイモ・ゴボウ・ネギ・ホウレンソウなど多様な野菜が作られていますが、行政は冷凍野菜の輸出に極めて熱心で、即墨市にある青島加ト吉食品(日本の加ト吉が一〇〇%出資)と青島市にある日本企業との某合弁会社(社名は言わない)の要求に応じて野菜を供給するうえで緊密な連携がとれているようです。

 安い農産物の輸出で外貨を稼いだり、外国の投資を受け入れて経済の成長を急ピッチで進めるという中国政府の方針が末端まで徹底しているようでした。

 (2)ホウレンソウ冷凍工場で

 あれでは工場に着くまでに蒸れてしまわないだろうか?と心配するくらいホウレンソウを山のように積んだ農民車が道路を走って行くのがバスの中から見えました。莱陽市の星華食品という工場では、一八〇〇人の女子労働者がシーズンには昼夜二交替で作業しているとのことでしたが、さこそあらんと思われました。冷凍工場の内部に入ることはできませんでしたが水槽で何回も水洗いしてから冷凍処理します。ちょっとなじめない匂いがしたのは処理薬のせいでしょうか。

 ここでの印象は、工場に合わせてホウレンソウが作られている――土の状況とか連作障害に対する配慮など、入り込む余地のないような生産・輸出という感じでした。

 (3)農産物加工工場を中心とした農業の行方

 昼夜二交代勤務で運び込まれるほど広い地域の畑でホウレンソウが作られているということは、冷凍工場の都合によって左右されることを意味しています。

 日本の野菜産地が移動してきた歴史、さらには高度経済成長時代に「野菜指定産地」と価格保障が連動した少品目大量 生産が進められ、その結果連作障害が大きな問題になったこと――そんなことが、外貨獲得という国家的見地から、もっと大きな規模で行われるのではないだろうかという不安を覚えました。それでも、輪作体系が確立していればいいのですが…。

 一方が工業の論理で運営され、一方が自然条件を生かしながら生産するという場合、後者が前者に従属することが続くとするなら、それは、「靴に足を合わせろ」という不合理が生まれないだろうか――そんな思いが頭をよぎりました。

土・連作障害について

 (1)年に四回ホウレンソウを作る!

 この暑い時期にホウレンソウが供給できるのかと思いましたが、年四回、同じ畑に作るとのことでした。それでは輪作はどんな風にしていますか――と聞くと、「やっている」とは言いましたが、あまり具体的ではありませんでした。

 (2)輸出第一主義で、野菜と穀物は生産区分

 むしろ、今後、トウモロコシなど穀物生産と野菜生産の地域を区分する方針で、野菜の地域には穀類は作らせないというのですから、事実なら、連作障害の顕在化が懸念されます。農業について無理解のまま農民を“指導”しているのかしらんと思いました。

ハウス栽培について

 (1)無加温の独特のハウス

 沿線各地でハウスを見ました。北側と東西両側を土塀のように土で固め、この上にビニールを張って温室にします。コスト高になるのでほとんどが無加温で、鉄棒の代わりに竹を使うこともあるそうです。

 作っているのはキュウリ・ピーマン・ナス・トマトですが、ここでは北京や天津などの大消費地が近いせいか、国内向けがほとんどとのことです。

 (2)塩類の集積の問題

 アメリカでも降水量が少ない地域で地下水をくみ上げて潅水した場合、やがて地下の塩類や使った化学肥料の塩類が地上に集積して全く不毛の地になったことは有名です。またエジプトでは旧ソ連の援助でアスワンダムが作られ、その結果作物ができるようになりましたが、やはり塩類集積で不毛の地になりました。

 日本でも、ハウス栽培の場合、連作障害のほかに塩類の集積ということが問題になります。これを防ぐには、膨大な完熟堆肥を使うとか、作付のない期間、二十〜三十日間、潅水して塩類を除去するなどの努力がされています。

 雨の降る日は「今日はよいお天気です」というのがこの地方の挨拶だと通訳の人は話してくれましたが、それほど降雨量の少ない中国で潅水によって塩類を除去するのは大変だろうと思って、その対策を聞きましたが、「客土する」という答で、首を傾げたくなりました。言葉が専門的で通訳がうまくいかなかったせいでしょうか。

川という川に水がない!

 遼寧省・山東省を通じて気になったのは、ほとんどの川に水がないことでした。たまに水があってもそれは溜まり水で流れる水ではありませんでした。黄河の断水は見ることができませんでしたが、「さもありなん」と思いました。その後、道端で働く農民に「今年はポンプで溜まり水をくみ上げて作物を作った」と聞き、改めて中国では干害は水害の三倍も大きい(日中経済協会『一九九九年の中国農業』)ことを思い、農民の苦労を思いました。

(新聞「農民」2000.11.6付)
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2000年11月

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