砂漠化の中国・黄土高原第5回 秋橋本紘二〈写真・文〉
本来、秋は農民には収穫の喜びの季節なのだが、黄土高原では喜べる年になるのはまれにしかないのだ。
収穫を喜べる年はまれで…私が初めて黄土高原を訪れた九六年は雨が多く、豊作だったが、前年の九五年は凶作。九七年は少し悪く、九八年はまずまずの収穫。昨年の九九年は、五十年ぶりの大凶作という最悪だった。丘陵地にある村は収穫が皆無。平均でも八五%の減収。国家からの救援食糧で食いつないでいた。収穫は、前年の秋からその年に降る雨量で大きく違うのだが、凶作になるのは干ばつの年だけでなく、春の遅霜や秋の早霜、夏のイナゴや虫の異常発生に見舞われる年もある。 黄土高原には「十年の年を重ねれば、九年は日照りで、一年は大水……」という古い民謡がある。それは今も同じだ。 農民に、「今年の作はどうですか」と聞いても、彼らは決して不作の予想は言わない。中国は言霊(ことだま)の国。口にすればそれが現実になってしまうと信じているからだ。
たまたま豊作でも喜べない砂漠化した土地では、採れたとしてもその収量は少ない。天鎮県孫家店郷の、村ごとの統計を見てみると、丘陵の低地にある村は地下水などで潅漑が可能なので、小麦、トウモロコシが作れ、一人当たり三百七十キログラムの食糧を生産している(中国での食糧統計は、小麦などの穀物収穫量なのだが、ここではジャガイモも食糧に含め五キログラムを穀物一キログラムとして換算している)。 丘陵地の上にある村では、この年は干ばつだったので、十アール当たりの生産高は二十キログラムにもなっていない村もあり、最低限の自家用食糧にも足りない収穫だ。 たまたま豊作になったからといっても、喜べるほどの現金にはならない。 九六年はまれにみる豊作で、ジャガイモもたくさんでき、一ムー(六・七アール)当たり千キログラム、潅漑できる畑では千五百キログラムも採れたという。だが、売り渡し価格は非常に安く、一キログラム当たり三角(日本円で五円ほど)にしかならないという。中国では、食糧価格は低くおさえている政策をとっている。私はこの政策が農村を貧しいままにしている一因だと思うのだが……。 秋は早く霜が落ちてくる。春の遅霜もあり、丘陵地にある村では無霜期間は九十日ほどしかなく、農業のできる期間は短い。 農民たちは、九月中には収穫を済ませ、畑の荒鋤をして春に備えておく。 (つづく)
(新聞「農民」2000.10.16付)
|
[2000年10月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224
Copyright(c)1998-2000, 農民運動全国連合会