稲がなんとなく元気がない 対日輸出に意気込むが…中国の農業を垣間見て小林節夫
〔その1〕遼寧省普蘭店市の模範水田を見て九月三十日から十月三日まで、千葉・多古町旬の味産直センター主催の中国農業視察旅行に参加することができました。私の問題意識は、(a) 米については、 (1)日本人好みの良質米の産地であり、対日米輸出の拠点である東北三省(遼寧省・吉林省・黒竜江省)の稲を見ること、 (2)本当に単収六百キロ近い高い収量が上がるのか、それはどんな稲か? (3)理科年表によれば、中国の北緯三十三度以北は降雨量が非常に少ないが、その対策はどうなっているのか (b) 野菜の対日輸出に ついては、 (1)山東省は野菜の一大産地というが、年間八〇〇ミリ足らずの降雨量しかないのに、どういう作り方をしているか? (2)野菜の輸出が盛んだというが、輪作はどうなっているのか? (3)日本に野菜をリレー的な輸出をするためにハウス栽培をしているが、塩類の集積はどうか、その対策は? (c) WTO加盟をどのように考えているのだろうか? というようなものでしたが、遼寧省は広大な中国の一省とはいえ、日本の本州くらい、山東省の半島部分だけでも九州に匹敵するくらいの広さですから、その一地点や一地域を見ただけで「中国の農業はこうだ」と断定できないだろうし、「まあ、百聞は一見にしかず。あまり期待しない方がいい」と自分に言い聞かせていました。 十月一日から一週間、国慶節(建国記念日)で、国を挙げてお祝いと休日だというのに、市の幹部や農業担当幹部が応対するなど大変お世話になりました。
普蘭店市側の説明を聞いて普蘭店市は大連の東北一〇〇キロくらい、人口八〇万人の都市で、副市長や農牧業局長が応対してくれました。副市長はコメの対日輸出に極めて熱心でした。農牧業局長の説明では――当地の稲作は、五月中旬に播種し、二ヵ月後に田植え、十月下旬に収穫、日本のヒトメボレ(一見鐘情)は、収量は籾で一ムー当たり四五〇キロ、一〇アールあたり六七四キロ(籾摺り歩合八〇%として玄米収量五三九キロ)ということでした。
刈り取り直前、枝梗まで青くその後、普蘭店市の特種稲試験示苑(模範)基地の水田を見学しましたが、そこでは――見たところでは、粳(うるち)でも糯(もち)でも、もう田面には水がなく、カラカラに乾いていました。九月中旬に落水したということでしたが、穂首から先の枝梗までまだ真っ青で、もうすぐ刈り取るとのことでした。 もう一つ気になったのは、稲の葉にゴマハガレ病のような小さな楕円形の斑点がどの品種にも一様に見られたことでした。日本では稲の根が最後まで健全だったのかと疑われる、ゴマハガレ病か秋落ち現象に見られる状態で、少なくともこういう薄汚れた葉では、丸まるした米粒は期待できないと思いました。現に、田一面が明るい黄金色ではなく、なんとなく元気のない表情で、穂も一見して実りそうにない茶褐色の籾が目立って、籾も細く、これでは籾摺り歩合八割はとても無理、玄米で九俵(五四〇キロ)はとても無理――市の説明はオーバーだと思いました。
七、八月に集中する降雨量理科年表(二〇〇〇年版)で、大連や瀋陽(沈陽)の降水量を見ると――。
七〜八月に集中して降っており、これでは農牧業局長の説明のように、田植えが七月半ばになり、落水が九月十五日というのも頷けます。それだけに、模範水田の稲の草丈が私の腰より低い短稈になるわけだと思いました。 「一ムーあたり、肥料を成分(チッソ・燐酸・カリ)でどのくらい使うか」と聞きましたが、何回聞きなおしても、「化学肥料三〇キロと有機質肥料だけ」という答が返って来るだけでした。 案外、農家の作っている田の方が出来はいいのではないかと思いました。また、行政や技術指導部が現場を知らないのではないか――という印象でした。
ヒトメボレなどを試験展示もう一つ、非常に強い印象は、対日輸出に異常に熱心なこと。行政から技術指導部までこの点は徹底しているようで、ヒトメボレ(一見鐘情)、コシヒカリ(越富一代)やハエヌキなど日本の稲や、中国で育種した遼粳四五四号(日本に大量に輸入されている)を試験展示しているようでした。模範農場のある地域は市の特種水稲生産計画図によると、「重点発展区」になっていますが、この地区の模範的な農場でも水不足で、いま二〇〇キロ北からパイプで水を引いて来る計画があるとのことでした。 もちろん、普蘭店市のことだけで遼寧省の稲作がこうだと断定することは非常に危険です。北部のデルタ地帯・営口市の水田ならもっとコメはとれるのではないか――とも思ったりしましたが、東北三省の、“農家”の水田を見たら全貌がつかめるのではないかと思いました。
(新聞「農民」2000.10.16付)
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[2000年10月]
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