「農民」記事データベース20001002-465-07

砂漠化の中国・黄土高原

第3回 春

橋本紘二〈写真・文〉


 春四月初旬ともなると、畑のあちらこちらで馬やラバに鋤を引かせ、春耕が一斉に始まる。

 乾ききった黄土が砕かれ、土ぼこりが立っている。突然、強い風が走ってきた。砂塵が舞い上がり、竜巻がみるみる迫ってくる。目も口もあけていられない。春になると、日本に「黄砂」が飛んでくるが、それは春耕で砕かれたこの黄砂だったのだ。

 春先は決まって強い風が吹き荒れ、空は黄砂で霞んで太陽もうすらぼんやりとしか見えない。今年、日本の福岡管区気象台は異例の二十二回も黄砂の飛来を観測した。

春耕の時期に雨が降らない

 小高い山の上にある廟の前に人が集まり、雨乞いのお祈りをしていた。

 種を播かなければいけない時期なのに、雨は昨年の九月から全然降っていないのだという。廟は文革時代に壊されたが、村人たち.が小銭を出し合って今春、再建したばかりだった。

 年間降雨量はわずか四百ミリほどしかないのだが、その雨も春にはほとんど降らないのだ。農民たちは「春先の雨は油より貴重だ」と言う。

 黄土高原は標高九百から千五百メートルの高地にある。山奥まで集落はあり、耕せるところは全て畑にしている。やっと立っていられるような急斜面まで畑がつくられている。

 どこの村でも大地のキャパシティをはるかに超えた人口がいた。

 天鎮県柳子保土村では八五年の人民公社解体の後、畑は村の一人ひとりに分与し請負耕作にしたが(中国では土地は国有で、農地は一人当たりに分与され、三十年間の借地)、その後に生まれた人には分与する耕地はなく、もはや開墾するところもないと村長は困っていた。

罰金を払って後継ぎ求める

 今、中国では「一人っ子政策」(農家は二人まで認められている)を強制的に推し進めているが、農家にとって男の子どもは大事な働き手であり、どうしても必要な後継ぎの子どもなのである。

 私が泊めてもらったある村の村長の家では、一番目の子は女の子で、二番目の子は双子の女の子。そして男の子を期待していた四人目は、やはり女の子だった。村長は二人の子の罰金(かなり高額)を払っていた。だが、罰金を払っても戸籍はもらえないのだと言う。戸籍がないということは、当然人口数に入っていないことになる。公表されている中国の人口は、十二億七千万人だが、実態はそれ以上であることは間違いない。

(新聞「農民」2000.10.2付)
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2000年10月

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