「農民」記事データベース20000814-460-10

豊かな自然、素朴な美しさ

栄村(長野)に魅せられて

石井恵美子


 長野県栄村に通い始めて五年になる。初めて訪れたとき、緑麗しい、豊かな自然に魅了された。すぐにこの村の素朴な美しさのとりこになった。

 何度か通ううちに、村人との交流も深まり、話ができるようになった。豪雪とのたたかい、棚田での米作りの工夫、農家の苦労話、昭和三十年代は村の人も都会に出稼ぎに出かけたことなど……。

 美しい風景だけを撮るのはダメだ、この村の人々の苦労、喜びも悲しみも、この厳しい自然の中で苦労を乗り越えて育ててきた田んぼや畑、そこで生き、働き続ける人たち――村をまるごと撮らなければ、という気持ちが私のなかで大きくなっていった。

 多くの集落を訪れたが、五宝木の老人が語った米作りの話は、涙とともに国の農業政策に強い憤りを覚えさせるものだった。戦後間もなく、荒れ地を開拓し、何度も失敗しながら五年の歳月をかけてやっと食べられる米が出来た。気の遠くなるような苦労をして、大切に大切に育てあげてきた土地では、いま米作りはされていない。減反もさることながら、高齢化と過疎化によって再び荒れ地化していく田畑。苦労が無に帰していく様子を見るのは、つらく悲しい。

 栄村は豪雪地帯だが生活道路の確保、一人暮らしの高齢者家庭への除雪支援は行き届いている。

 なくなりつつある茅葺き屋根。いつまでも昔懐かしい農村風景を残してほしいと思うのは、都会に住む者のわがままなのだろうか。それでも、栄村を歩いていると、嬉しい発見もある。秋山郷では田んぼにタニシがたくさんいるのを見つけ、「農薬を使ってないからだ」と感動してしみじみと田んぼの中を覗き込んだりした。

 高橋彦芳村長にも何度かお会いした。村の人の知恵を集め暮らしに役立てることに長けている。

 今年の三月には「筑紫哲也 NEWS23」のテレビ番組で栄村のユニークなデイケアー事業として「ゲタばきヘルパー」が紹介された。

 栄村の人口は、今年七月一日現在二千七百四十八人。六十五歳以上(千八十七人)の高齢化率三五・五六%である。村内のヘルパー有資格者百六十八人。秋山郷でヘルパー資格を持っている人が十六人、村の施設を使ってデイサービスを実施している。隣人同士が助け合う習慣を巧みに生かしていることに感心する。

 栄村のヘルパー有資格者は十六人に一人、六戸に対して一人の割合になる。住民の健康と安全に村民の力を組織する民主村政の姿が見える。

(東京・大田区在住、保育士)

(新聞「農民」2000.8.14付)
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2000年8月

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