「農民」記事データベース20000814-460-01

生きざま刻んで50年

戦争への怒り原点に

農民詩人 前田新さん(福島・会津高田町在住)

 「政治も農も暮らしも、そして詩も一つのもの」と土を掘り起こすように農民や自らの生きざまを次々と作品に発表してきた農民詩人の前田新さん(62)。昨年脳梗塞に襲われ、左半身不随という困難を背負いながらも、農民のたたかいを描く意欲に燃え、リハビリをかねて農作業に励むかたわら、ワープロを打ち続けています。今年六月には五冊目の詩集『秋霖のあと』を発行しています。

 福島県会津高田町の前田さんの自宅を夏の暑い最中に訪ねました。

(西村)


苦労にめげない気丈な母の姿に

 「ここいちばんというとき/私を頑なにするのは/幼年時に見たあの光景だ/振られた日の丸の旗/若かった母の胸に提げられ帰ってきた/父の空っぽの骨箱」(詩集『秋霖のあと』)

 この詩は、三歳で父を亡くし、七歳で義父を戦争で失なった体験を作品にしたものです。

 前田さんの詩の原点は、肉親を失った戦争への怒り。一歳で祖母に預けられ、母親と一緒に暮らせないなど、母と子の苦労は並大抵のものではありませんでした。

 高校卒業後、農業についた前田さんは青年団運動にかかわり、一九六〇年の日米安保条約反対の闘争に参加する中で、社会的にも目覚め、二十五歳で町議に当選しました。

 その当時の状況をうたった詩――。

 「父親のない私が二十五歳で町議選に出た時/『褒める子の夜糞』と声高に揶揄され/『村の恥』とののしられるなかで/おふくろは必死に耐えた/それから十数回の休む間もない選挙の度に/『息子は何も悪いことはしていない』と/ただ、それだけを云って黙々と野に出た/貧農に嫁いで三年で亭主に死なれ/這いずるようにして戦後を生き/やっと一息と思った時に、/ひとり息子は『アカ』、になった/『何をしようと仕事の手を抜くな』と/四時にたたき起こして野良に出る」(詩集『秋霖のあと』)

 母親のサワノさん(85)は、今でも朝五時に起きて草取りをするほど元気です。

ハンディ負っても情熱傾け

 前田さんは朝夕、奥さんの喜代子さん(63)とともに、キュウリを収穫し、それを出荷するためのダンボール箱を組み立て、箱詰めをしています。右手だけの慣れない手つきですが、昔とった杵柄で作業をこなしています。「きょうも朝早くから畑にいってきた。ヒモが結べるようになった」と笑顔の前田さん。ハンディを背負った人には見えない朗らかさです。

 水田一・六ヘクタール、畑四十アールの経営。町議、農業委員、農協理事、福島農民連副会長、会津農民連会長などの要職を三十年余務めてきました。

 過労も積み重なり、昨年六月に脳梗塞で入院。八十五キロあった体重が六十七キロになり、ふたまわりほど痩せてしまいました。「いままでのズボンがはけなくなった」と苦笑い。しかし、詩の話になると右手を振り上げて熱弁。圧倒されます。

宮沢賢治らの文学からの影響

 詩を書き始めるきっかけは、中学生時代の恩師・蛯原由紀夫さん(詩誌『詩脈』主宰)の薦め。詩との出合いは、前田さんの才能を開花させました。

 読書の好きな前田さんは、宮沢賢治からロマン・ロラン、小林多喜二、宮本百合子、松永伍一、村野四郎、マルクス、エンゲルス、レーニンと読みあさりました。

 とくに宮沢賢治の文学と生き方にふれたことが、人生に影響を与えました。なかでも宮沢賢治の「農民芸術概論綱要」に書かれていた「世界全体が幸福にならないうちに、個人の幸福はあり得ない」という一節。前田さんの生い立ちと重なるものがあったからです。

 前田さんは、二十歳代から十年ごとに詩集を一冊出し、これまでに五冊刊行。福島民報「働くものの詩」の年度賞を二度、福島県文学賞詩の部で一九六七年に詩集「少年抄」が準賞、八五年には詩集「貧農記」で正賞を受賞したり、詩「むかい火」が『日本農民詩史』にも収録されています。新聞「農民」九八年新年号の一面に「冬の樹」と題する詩を載せるなど、福島県現代詩人協会の会員として活躍しています。

農民連の人に光を当てたい

 福島県の南西部、山に囲まれた会津盆地にある会津高田町。中心街は藩政時代に越後から下野に通じる街道の宿場町として栄えた歴史ある町です。

 「会津には三大農民一揆があった。これまで二つの一揆を詩にしたが、残りの一揆についても作品にしたい。会津の農民一揆の歴史を受け継いでたたかっている農民連の活動家にも光を当てたい」と語る前田さん。

 農民連を強く、大きくしたいという思いを切々と語る前田さんは、きょうも作品の構想を練っています。

(新聞「農民」2000.8.14付)
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2000年8月

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