「農民」記事データベース20000807-459-10

都市住民と農家結ぶ

ユニークな農業体験農園

東京・練馬「風のがっこう」

 「太った枝豆でしょう。今夜のビールが楽しみ!」「トウモロコシの収穫が待ち遠しい。去年はカラスにやられたのよ」東京都練馬区大泉町。閑静な住宅がフッと途切れた畑の一画(50アール)に、区の農業体験農園「大泉 風のがっこう」があります。


生産緑地指定や助成制度など

行政に提案して実現

青年運動で培った思い実った白石好孝さん

たわわに実って

 土曜日の午後三時、サンバイザーにトレーニング姿のお父さん、麦わら帽子姿のお母さんたちが、三々五々集まってきました。先生で園主の白石好孝さん(46)の身振り手振りの講義の後、さあ、いよいよ収穫!。春野菜コース最終回(十回目)の今日(7月1日)、一区画三十平方メートルの畑には、トマト、ナス、キュウリ、枝豆、トウモロコシなどが、たわわに実っています。

 「農作業するようになって、子どもをしかる回数が減ったわ」と、主婦の井上さんと松本さん。「土がいいのでよく育ちます。白石さんや先祖のご努力のおかげですね」と言います。

生産緑地生かす

 区内に五カ所ある農業体験農園は、一般の農園と少し違います。園主である農家が、年に一度、畑を耕し、年間の作付計画を立て、種や苗、肥料を用意します。ですから、野菜づくりの経験のない人も収穫の喜びを味わえるというわけ。

 「土いじりが好きでストレスの解消になります」という橋本さん(52)。月曜日から金曜日まで、群馬県に単身赴任しています。農地は都会に暮らす人々にとってオアシス。練馬区には、区民農園も含めて四十カ所ありますが、抽選で当たるのは“至難の技”です。

 この農業体験農園のシステムは、農家にとっても大きなメリットがあります。それは、生産緑地の指定と相続税の猶予措置を受けられること。「そうでなければ、毎年十アール当り七十万円の固定資産税の他に、数億円の相続税で三分の二の農地がなくなってしまう」と、白石さんは言います。

都市農業に援助

 また、区は、(1)利用者が払う利用料二万九千円の他に上乗せして、一区画一万二千円を助成、(2)トイレや杭など施設整備費用の三分の一を補助、(3)広報で利用者を募集する、などの援助を行い、結果として、農家は十アール当り百万円の収入を得ることができます。

 こうしたシステムを区に提案し、実現を求めたのは、白石さんら農家でした。「都市と農村をつなぐことが俺の責任だと思った」と白石さん。この提案は、行政に受け入れられ、九六年から毎年一園づつ増やされてきました。

農業を楽しく

 「二十歳代の前半は、俺の代で終わりかと迷った」白石さんが、考えをだんだん変えていくのは、全青協(全国農協青年組織協議会)委員長としてコメ自由化反対運動の最前線でたたかうようになってから。「デモ行進をしても都会の人の目が冷ややかで、マスコミにも農家は時代遅れのように書かれたりして…」。

 しかし一方で「ヨーロッパなどと比べて日本だけが農業を低く扱っている。バランスを欠いていることを知った」といいます。そして、いろいろな人との出会いがあって、「もうやるっきゃない」と腹をくくりました。

 「利用者から『こんないいものが採れたよー』って反応が返ってくるのがやりがいなんです」と白石さん。「自らが楽しく、おもしろくがモットー。だって、歯を食いしばってやるだけじゃ、子どもらが継いでくれないでしょう。今のところ、長男(12歳の秀徳くん)が継ぐって言ってるんです」と微笑みました。

(二瓶/新聞「農民」2000.8.7付)
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2000年8月

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