「農民」記事データベース20000731-458-01

雪印食中毒事件

“おいしい本物の牛乳作れ”

酪農家・消費者ら強く要請

もうけ本位・手抜き・ずさん管理追及

 「本当の牛乳のおいしさを消費者に届けたい」「乳業メーカーで食中毒なんて、二度と起こさないでほしい」――七月十七日、雪印乳業の食中毒事件に関連して、農水省、厚生省、文部省、雪印乳業東京本社に対し、全国食健連、農民連、畜全協が共同して緊急要請と申し入れを行いました。交渉には、北海道、福島、群馬、茨城、兵庫の酪農家のほか、全教の栄養士の先生など約三十人が参加しました。


「落ち度ない」無反省な農水省

 もっとも農民の声を聞くべき農水省。ところが応対した畜産局牛乳・乳製品課の課長補佐は「製造工程の監督は厚生省の管轄で、農水省に落ち度はない」と、まったく他人ごとのよう。「酪農民は食中毒事件が乳価引き下げにつながるのでは、とすごく心配している」と福島県の酪農家、佐々木健三さんは言います。

 乳業メーカーは日頃から細菌数、体細胞数、乳脂肪分、無脂乳固形分、抗生物質の有無など「乳質」を口実に容赦ない酪農家に買いたたきを加えています。ところが、そのメーカーが三週間も洗浄をせず、一度出荷したものを再利用する……「酪農家はミルカー(搾乳機)を一日も洗わないなんて、考えられない。メーカーは牛乳という生鮮食品を扱うという自覚がまったくない」と怒りが噴出。ところが農水省は心痛めるそぶりもありません。

 食中毒は、加工乳や乳飲料の製造工程に集中して起きていますが、もともとこの加工乳や乳飲料は、水に脱脂粉乳やバターとちょっとの生乳を混ぜたもの。乳業メーカーがより多くもうけるための安上がりな“ニセ”牛乳です。「消費者には搾ったままの牛乳のおいしさを味わってもらいたい」これは酪農民の切なる思いです。輸入脱脂粉乳・バターを使った混ぜもの牛乳に腐心し、基本的な洗浄すら手抜きするもうけ本位の大手乳業メーカー、それを後押しする農水省。食中毒事件は起こるべくして起きたと言わざるをえないものです。

安全管理は企業まかせで

 交渉では、「もともと生乳を巨大工場に集めて加工する、という農水省の方針がまちがい」という声も相次ぎました。農水省は今年四月の「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」のなかで、牛乳工場を現在の七〜八割に統廃合すると明言しています。この大規模化推進の口実として使われているのが、HACCP(ハサップ)です。

 乳業メーカーの監督責任を負う厚生省との交渉では、問題のHACCPの担当者が応対しました。HACCP承認の施設は現在、全国で約九百五十(牛乳・乳製品施設は三百八)施設もありますが、HACCP専門の担当官はたった一人。実際は全国の自治体・保健所が肩代わりして調査し、国は書類を承認するだけ。雪印大阪工場の場合、承認後の検査も年四回しか行われていませんでした。

 しかも雪印はHACCP申請のさい、食中毒を起こしたバルブと予備タンクを隠して申請し、厚生省もこれを見逃して承認していました。厚生省は「書類にないとみつけられない」「隠れて承認外のことをされるとわからない」と回答。ずさんな承認・検査体制をしぶしぶ認めました。

 これには酪農家からも「流通の現場では、HACCPの承認がないと牛乳が納品できない“錦の御旗”になっているのに、あまりにも無責任ではないか」と、怒りの声が上がりました。HACCPの承認をとるには、大きな設備投資が必要で中小の乳業メーカーは倒産に追い込まれる例もあるというのに、厚生省は「HACCPは、あくまで製造段階での自己管理体制に与える承認で、製品の安全性を保証するものではない」とあっさり。「企業まかせの安全管理システムでは、国民の食の安全は守られないではないか」と厳しい批判が相次ぎました。

 また一行は、文部省へも要請を行い、学校給食への牛乳・乳製品の供給体制を早急に回復するよう求めました。

抗議されただ平謝りするだけ

 当事者の雪印乳業には、ノボリ旗をたてて東京本社を訪れ、申し入れをしました。雪印は「申し訳ない」と平謝り一辺倒。しかし原因や反省の内容については言及はありませんでした。

 群馬県の酪農家の住谷輝彦さんが「私は仲間と共同で安全な飼料を作ったり精一杯の努力をしながら、半世紀もの間、牛飼いをしてきた。今度の食中毒で牛乳への信頼が壊れてしまって、本当にはらわたが煮えくり返る思いだ」と話すと、応対した営業副部長らも「私自身、“素材に優る製品なし”と教わりました。その精神をいつしか忘れていました」とうなだれました。畜全協事務局長の坂田進さんは「雪印はこれまでも乳価切下げの先頭を切ってきた。以前申し入れに訪れた時は“日本の酪農家がつぶれてもかまわない”と豪語していたのが忘れられない」と指摘しました。

 一行は雪印本社前で、「雪印は食品の安全を守れ。生乳の買いたたきや、乳製品の輸入をやめろ」とシュプレヒコールしました。

*HACCP(ハサップ)安全な衛生管理システムをそなえた施設であることを証明する「危険度分析による衛生管理」。そもそもの起源は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が宇宙食を開発する際に確立した手法で、製造・加工の全工程をポイントごとにチェックし、細菌混入などの可能性を徹底的に排除するというもの。承認には大型の設備投資を必要とする一方、企業側は食品衛生管理者をおかなくてよしとするなど、企業まかせの安全管理システム。日本では「規制緩和」の掛け声のもと、九六年から食品衛生法を改正して導入された。厚生省が承認する。

(新聞「農民」2000.7.24・31付)
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2000年7月

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