「農民」記事データベース20000710-456-07

子どもの健やかな発達を歪める学校給食の現状

雨宮正子


 「学校給食は食という体験を通じて生きる力の原点を学ばせる場である」という趣旨説明がされて、学校給食法は一九五四年に国会で成立しました。この立場で学校給食の現実を見るとき、いつの時代も時の政治の動きで歪められてきているのです。

輸入優先の食生活が子らの体を蝕む

 五四年、学校給食法の成立後、MSA小麦の輸入により日本の「ご飯と味噌汁」が悪者視され、学校給食はパン食普及の場になってしまいました。六〇年代の日米安保の体制のなかでは農業予算が削られ、これとセットのように学校給食はセンター化が促進され、パン食にマッチしたヨコ文字ばかりの冷凍加工食品活用の献立になりました。七〇年代は栄養士を食の管理者とし、身分を県費に移管し献立も広域的・長期的に立てる指導がされました。これによって食材を各学校ごとに自主的に選ぶ自由が失われ、例えば目前に新鮮な緑黄色野菜があっても使えず、保存のきく「冷凍ほうれんそう」になったのです。

 米余りから米飯給食も入りました。設備もなく、人手も増やさずの米飯給食です。それでも現場や子どもは大喜びです。輸入によって冷凍加工食品を大量生産してきた日本の高度経済成長期にはさらに、アメリカの食戦略によるハンバーガー店を続々と出現させました。「日本の子どもの味覚から醤油と味噌をきらいにする」とはマクドナルド社の言葉です。

 八〇年代に入り食の変化による子どもの体の異常が目立ちはじめました。成人病の低年齢化。アレルギーが増え、子どものいじめが広がり狂暴化する…。前頭葉の変形も出てきました。

 九〇年代には、環境ホルモン、遺伝子組み換え、WTO協定による外米の輸入。学校給食はO―157による大量中毒に見舞われ、その結果、生野菜は塩素で消毒、キュウリも湯通しと、「かいわれ犯人説」が現場には労働強化を、子どもには食文化の変質を強要しているのです。

アメリカの外食産業を参入させる

 さらに米飯給食の補助金を三カ年で完全に削減してきたのです。そのうえ、学校給食の民間委託も推進されています。教育の公的責任を民間大企業の利潤追求に売り渡すという無責任な政治を許すことはできません。いつの時代も学校給食の安全を守り発展させてきた公務労働者と農業者の手から、食の国際化を進め、コスト削減を第一とする委託業者に子どもの「教育としての学校給食」をまかせることは許せません。この日本の給食を、世界最大の外食産業マリオット(アメリカ)が視野に入れていると、日本給食サービス協会の委託推進の提言に書かれています。

 穀物自給率を低下させ日本の農業をつぶす政治は、子どもの健やかな発育を奪う政治であると、学校給食の動きとともに実感しています。このまま黙っていたのでは、ミニマムアクセス米が学校給食に平然と入れられるでしょう。私たちは子どもの生命を守るためにも、農民とともに頑張りたいと思っています。

(いのちをはぐくむ学校給食全国研究会代表)

(新聞「農民」2000.7.10付)
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2000年7月

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