「農民」記事データベース20000710-456-02

総選挙をふりかえって

農民連小林節夫代表常任委員が談話

関連/総選挙 自民農政に厳しい審判


大敗した政権与党

 自公保陣営は解散前に比べて六十五議席も減らしました。とくに、コメ関税化や価格保障廃止を強行した玉沢徳一郎農水相や桜井新自民党農林水産貿易対策委員長らが落選したことは、農民の怒りや不信の大きさを象徴的に示しました。

 しかも(1)比例区定数を減らして小選挙区を維持し、自民党が四割の得票で六割の議席を占めるという最も有利な条件で、(2)政策宣伝を極端に制限した暗闇選挙で、(3)選挙協力で公明党・創価学会の力を借りたうえ、(4)悪質な大謀略反共ビラを一億数千万枚もまいた――などの空前の汚く暗い選挙をしても、なお大幅な後退をまぬがれなかったのは、その行きづまりの深刻さを示すものです。

 農民連はこの一年余りで、自民党の亡国農政を事実にもとづいて批判した新聞「農民」の号外を数百万枚まいてたたかいました。「農民」のいくつかの記事が、自民党後援会員の農民の手で増し刷りされて配布されたことなど、自民党敗北への影響は決して小さくなかったと思います。

誰が民主主義と農業の守り手か

 政権党による空前の大謀略選挙は、日本の民主主義と農業にとって他人事でなく選挙がすんだからといってウヤムヤにできません。

 重大なのは、ジャーナリズムのほとんどがこの問題にはまったくふれず、テレビの討論などで、これを指摘する日本共産党幹部にくってかかったり、冷笑したことです。ここには権力に対する批判や社会正義のためにキャンペーンを張るというジャーナリズム精神の欠如と腐敗・堕落がみられます。戦前のジャーナリズムの戦争協力の誤りを想い浮べても、政権党の犯罪とジャーナリズムの腐敗に抗議と侮蔑のキャンペーンを張るべきだと思います。

 こういう情勢のもととはいえ、民主主義と日本農業を一貫して守り、誠実にたたかい抜いてきた日本共産党が後退したことは大変残念なことでした。

 農民連は政党支持の自由、政治活動の自由を全員に保障している組織です。同時に、選挙は政党に頼まれてするものではなく、私たち一人一人が主権者として農民として、自分の問題として要求実現のためにたたかうべきものです。

 現に目の前で亡国農政が強行され、投票の三日前にリンゴ園の樹を全部伐って、そこで夫婦が焼身自殺した東北の農民のことなどを思うと、断じて傍観していることはできません。

 来年は参議院選挙があります。そういう立場からみて、自民党が一貫して農業つぶしの政治を強行し、日本共産党がその対極で民主主義と農業を守るために頑張ってきたこと、さらに他の政党が自民党に同調し続けてきた事実を指摘せざるをえません。こういう事実にもとづき、要求実現のために大いに議論し行動することが求められています。

 自公保政権が消費税大増税をはじめ、さらに反国民的な政治に走ろうとしているだけに。なおさらです。

21世紀に大きな灯りを

 選挙中はもちろん、地域で活動すると、全国の仲間のなかには「こんな人間群像がいたのか」「こんなにすばらしいことがあったのか」と感動することがたくさんあります。また、野菜をはじめ農産物の暴落の悲惨な実態と、セーフガード発動の要求など、農民として誰でも共感できる要求がますます鮮明になっていることを痛感します。

 そんな経験を持ち寄り、ここから学んでエネルギーにし、展望を持つ努力をしたいものです。

 農業が粗末にされるなかで、今日の危機的な教育が立ち直ることなどありえません。人間性の回復ややすらぎ、教育力――それは、農業が持つすばらしさです。

 農民連の仲間を増やし、新聞「農民」の読者を増やし、助け合い、励まし合うなら、自民党型農政が破たんする二十一世紀に大きな灯りが見えてくる――これが選挙後の展望です。ともに頑張りましょう。


総選挙 自民農政に厳しい審判

現職農水大臣が落選◆岩手

 現職農水大臣の落選というかつてない“珍事”を巻き起こした岩手一区。選挙区は盛岡市とその周辺。玉沢農相は、周囲の農村票が頼みの綱、農協、農協婦人部、青年部、土地改良区の役員会など、ありとあらゆる手段を使ってかつてない猛烈な締めつけ選挙を繰り広げました。

 しかし結果は、頼みの農村部で伸び悩み落選。地元の要職を歴任してきたという七十代のある農家は「長年、自民党を支持してきた。だがもう今度はダマされない。米価は暴落し、減反は増える一方だ」と農政への怒りを語ります。

 選挙区の一つ、紫波(しわ)町は、モチ米生産では日本一、耕作面積の半分以上モチ米を作っているという農業地域ですが、今年はその一割を減反しました。しかしモチ米輸入の増加量は町の生産暈の約二倍にも達しています。農家切り捨てを重ねる自民党農政に、農家はシラケムード。表面は“自民支持”を約束した農家でも、怒りの心まで締めつけることはできなかったということを如実に示した選挙結果でした。

元農水官僚に批判の声◆徳島

 徳島一区に自民党から立候補した元農水省構造改善局次長の岡本芳郎氏は、有権者の厳しい批判をあびて落選。

 吉野川下流域地区国営総合農地防災事業は、同下流域の農地に配水路をめぐらせるために一九九一年に実施、当初事業費五百五十億円から七百四十三億円にふくらみました。

 その事業を進めた張本人が岡本氏。参院予算委員会で日本共産党の緒方靖夫議員が大手ゼネコンの談合で実施されてきたとの疑いを追及。日刊ゲンダイでも「構造改善局元次長が公共事業を“土産”に立候補」などと報道されるほどのいわくつきの人物。

 徳島市で食品販売をしている久保功さんは「防災事業の問題や天下りで人気がなかった」と指摘。吉野川第十堰可動堰化計画反対の住民投票運動に取り組んできた同市の会社役員・小林俊彦さんは「岡本氏は農水省官僚で、住民の感情とはかけ離れていた。可動堰問題では住民投票で審判が下されたので、彼は可動堰問題にはふれなかった。自民党の進めるムダな公共事業はダメだという意識が住民にあった」と語っています。

自民党支持者の中の変化◆茨城

 今回の選挙期間中、組合員の声を聞いていて実感したことは、これまで自民党を積極的に応援してきた人ほど、劇的に変化しているということでした。

 その根底にあるのは、「裏切られた!」という思いです。東町で六ヘクタールの水稲専業農家Aさん(50)は、「食管廃止なんて絶対ないと思っていた。あれ以来、自民党に入れるのをやめた」と言います。また、自民党候補者の後援会長をやっていたという、同町の組合員のお父さんは、「輸入して減反なんてバカなことがあるか。今度は共産党に入れろと話してるんだ」と語っていました。

 どこへ行っても、「米も野菜も安くてねえ」があいさつ代わり。「農民」号外を持って行くと話がはずみます。茎崎町で野菜農家Bさんの奥さんは、「この辺りも表向きは自民党と言っているけど、『今度は共産党だ』とあちこちで聞くよ」と言います。

 また、つくば市の兼業農家Cさんは「今の政治は言ってることと、やってることが全然違う」と、怒りに声を震わせます。同市の野菜専業農家Dさん(51)は「昔は農業をよくするのは自民党だと思っていたが、今は輸入が増えて、価格がひどい。みんな、どこに投票するかは自由だと考えるようになった」と語っていました。

(茨城県南農民組合 村田深)

今の農政では暮らせない◆千葉

 千葉県の佐原市農民組合は、市内の全農家約五千戸のうち三千戸の農家と新聞「農民」号外で対話しました。「今の農政ではやっていけない」と堰を切ったように話し始める農家など、これまでの選挙では考えられないほど自民党農政への怒りの声が出され、変化が起きています。

 佐原市農業の中心は米。一週間で五百戸の農家と対話した佐原市農民組合の小林利雄組合長は「コメを、輸入しながら減反する農政への批判はすごい。いまの生産者米価ではとてもやっていけない。米専業の農民は田んぼをうなったり、刈り取りなどの作業委託をしてやっと生活している。最低でも一俵(六十キロ)二万円ないと生活できないなど、切実な要求を持っている。輸入のために米価が下がっているとの声が多くの農民から出された」と語っています。

 また、小林さんは「ジャガイモの値段が半値になった。野菜の値段が暴落し、なんとか輸入を規制してほしいという要求も出された。農民から逆に頑張ってほしいと頼まれた」と農民の変化を肌で感じています。

(新聞「農民」2000.7.10付)
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2000年7月

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