「農民」記事データベース20000619-453-05

緊急輸入制限

なぜ発動しない自公保政権

WTOに“滅私奉公”浮き彫り

関連/セーフガード発動、何としてもエノキ農家も安値で苦境にセーフガード発動求める


 キャベツ一個六円、エノキ一袋三円――国内産地を異常な価格破壊が襲っていますが、「調査中」を繰り返すだけで、激増する輸入に、なんの手もうたない自公保政権。

 各国に緊急の輸入制限や関税引き上げを行うことを認めたWTO協定上の権利(セーフガード)をまったく行使せず、逆に義務でもない外米輸入(ミニマム・アクセス)を「義務」だと言い張って輸入を続ける自公保政権の逆立ちぶりがきわだっています。

国内生産守るため各国は発動

 農水省は五月に公表した「WTO農業交渉の課題と論点」で「農業の多面的機能の尊重」を前面に、次期交渉にのぞむとしています。しかし、いま大問題の野菜や米の暴落の引き金になった輸入急増には何の手もうとうとしていません。

 それどころか、政府は、国産野菜の過不足に関係なく、いつでもどこからでも野菜を輸入するという大商社のもうけ本位のやり方に目をつぶって「国産野菜の不作や端境期に輸入されている」というノーテンキな認識を示し、セーフガード発動の“セ”の字も言わないのが最大の特徴です。

 しかし、各国とも自国の農業を守るためにセーフガードを発動しており、正式の発動のほかに、あの手この手で輸入制限を実施しているのが実態。

 
輸入激増から国内生産を守るのは世界の常識
一般セーフガード発動
アメリカ 小羊肉
小麦グルテン
1999〜2002年
1998〜2001年
韓国 にんにく
乳製品

1999年
1997〜2001年

チリ
  ケアンズ
小麦、小麦粉
砂糖、植物油
1999〜2001年
チェコ 砂糖類 1999〜2003年
スロバキア 豚肉 1999年
ラトビア 豚肉 1999〜2001年
その他の措置
アメリカ *グランドナッツ関税割当
*大豆価格暴落に対し、差額補てん(2000年4月)
フィリピン
  ケアンズ
*豚肉ミニマム・アクセス輸入実績10%台に押さえ込み
*鶏肉輸入急増対策を検討
チリ
  ケアンズ
*小麦・てん菜・植物油の価格安定帯維持のために関税率を大幅引き上げ(99〜02年)
インドネシア
  ケアンズ
*米・砂糖製品の関税をゼロから30〜50%に(2000年〜)
農水省インターネット資料などから作成

 とくに“農産物と工業製品を区別しないで完全自由化を”という乱暴な主張を繰り返しているアメリカや農産物輸出国グループ(ケアンズ・グループ)諸国の発動が目立ちます。

発動しても報復はされない

 セーフガードは、例外なき自由化を強要するWTOのもとで、各国の被害を救済するための唯一の制度。だから、WTO以前よりも強化され、(1)セーフガードの発動期間は原則四年(最長八年)、(2)日本が発動したとしてもアメリカなど相手国は三年間は報復措置をとれない、(3)発動するためには、政府が輸入増加の事実と損害を調査し、WTOに通報すればよい――ことにされたのです。

 こんな簡単なことがなぜできないのか――。森首相のモットーは“滅私奉公”。しかし農民には箱代にもならない暴落価格を押しつけて“滅私奉公”を強いる一方、WTOに対しては“滅私奉公”――これではたまったものではありません。

 野菜はヘルシーと言われてきた日本食のベース。しかし輸入野菜は二百六十四万トンで、国内生産の二割に達します。逆に国産野菜の生産量は千六百万トン台から千三百万トン台に落ち込んでいます。

 もともと商売では買う側がお客。世界最大の農産物輸入大国である日本が、アメリカとWTOに気がねして、これ以上放置することなど許されません。


セーフガード発動、何としても

水垣正弘(茨城・八千代町議・農業委員)

 小竹節さん(日本共産党農業委員、茨城県西産直センター代表理事)と共同で、「セーフガードの発動を求める」建議を提案した自民党公認の八千代町議・農業委員の水垣正弘さん(36歳、四・五ヘクタールの畑作農家)。

 「今年のハクサイ、キャベツなど春野菜の価格は、例えて言えば、飛行機が滑走路を走って、走って、結局飛びたてなかったようなもの。こんなに安い年は初めてだ。米の価格破壊が起こり、野菜もいつか来ると思っていたが、今年はつくづく感じている。

 二・八ヘクタール作付したハクサイを半分うなった。一日五百ケース、一ケース五百円の契約を業者は一方的に打ち切ってきた。農家は、自分で作ったものに価格をつけられないのがくやしい。

 秋野菜の種まきが始まるが、仲間もみんな迷っている。秋もこんなだったら、とてもやっていけない。生産意欲をなくす前に、何とかしないといけない。

 セーフガードは、どうしてもやってもらわなければならない。農業委員会で中国を視察してきたが、とにかく人件費が安く、広大な陸地だ。止められる輸入は止めてもらわないと。

 農業は基幹産業だ。自民党には、その柱をきちんとしてもらわないと困る。今度の総選挙では、かなりお灸をすえられるだろう。夢のある農業にするのに、党派はない」。


エノキ農家も安値で苦境に

石川光徳(長野・木島平村)

 長野県北部の木島平村で、エノキ茸栽培をする飯水岳北農民組合員の石川光徳さん(38歳)は、小屋の棚に並んだビンの白いエノキを見ながら、「これは明日から収穫ですが手取り三十五円。安くてねぇ」とため息。

 一本のビンから採れる約二三〇グラムのエノキが冬の需要期で最高七十五円、真夏で二十五円にしかなりません。不景気の上に輸入も増え、大規模化がすすみ、それでも売れないので、加工用一株十八円でどうかという生産者が出たとの情報も。

 一方、六月八日、東京池袋のデパートで販売されていた長野県産エノキの価格は、一〇〇グラム百円、コンビニでは百三十五円でした。

 全体として生産者は減少しているのに、大規模経営化で長野県のエノキ茸生産量は、平成六年の六万六千七百トンから平成十年で八万三百トンと増えています。

 石川さんは、「弱肉強食の市場原理を押し付け、規模拡大をさせながら輸入自由化をすすめて国内農業をつぶす自民党農政は変えなきゃ」と話しています。


セーフガード発動求める

各 地

 茨城県では、常総ひかり農協(広域合併農協)が、域内の市町村議会へセーフガード発動の請願をすることを決定。八千代町議会ではさっそくこの請願が全会一致で採択されました。また茨城経済運も茨城県議会に請願する準備を進めています。

 また群馬県農民連も、セーフガード発動の国会への請願署名に取り組んでいます。

(新聞「農民」2000.6.19付)
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2000年6月

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