「農民」記事データベース20000605-451-03

総選挙前たった三時間審議で

価格保障制度を全廃

アメリカは大統領選前に保障三倍化


 WTO農業協定と新農業基本法にもとづき、価格保障制度を全廃してしまえ――今度の国会で、牛乳(加工原料乳)、砂糖キビ・テンサイ、大豆・ナタネの価格保障を廃止する法案が次々に可決・成立しました。

 いずれも自民・公明・保守の与党三党のほか、民主・自由・社民党まで賛成し日本共産党だけが「農家の経営を安定させ、食料自給率を引き上げるためには、価格保障の充実こそが必要。廃止なんてとんでもない」として反対を貫きました。

 五月九日に開かれた衆院農水委員会。「昼飯前」の三時間十五分で加工原料乳の価格保障制度(不足払い)廃止法案を片づけた後、午後には砂糖価格安定法の改悪案を二時間十五分で“一丁上がり”に。いずれも昭和四十年以来、三十五年間続いてきた制度は、あっけなく葬りさられました。

 審議を固唾をのんで傍聴した佐々木健三さん(酪農家、農民連常任委員)は思わず「なんだ、この審議は! 農家のことをどう考えているんだ! 総選挙を目前にして、日本共産党以外の各党が悪政を次々に押し通す。ここまでなめられて黙っているわけにはいかない」と、怒り心頭。

価格保証廃止法案に対する各党の態度
(2000年3〜5月)
 
自民
公明
保守
自由
民主
社民
共産
加工原料乳
価格保証廃止法
大豆・ナタネ
価格保証廃止法
テンサイ・砂糖キビ
価格保証廃止法
(注)●は賛成、○は反対

“市場原理”“弱肉強食”むき出し

 審議では、与党側が「WTO交渉に向けて市場原理導入が必要だ。生産者も価格保障制度に頼らず、自助努力で“希望”をもって頑張るべきだ」(公明党・宮地正介理事)と、価格保障廃止後、農民は大資本の買いたたきに会っても自分の力で生きていけ――と「弱肉強食」の論理むき出し。

 一方、日本共産党は「酪農家が半減しているが、離農の理由は負債と将来不安。乳価は二割下がって再生産ができない。市場原理では大手乳業メーカーの買いたたきで、乳価は下がるばかりだ。価格保障制度をなくすことは、酪農家に引導を渡すようなものだ」と徹底的に自公保政権の悪政を批判(中林よし子議員)。

 これに対し、玉沢農水大臣は「消費者に好まれるものを作れば、市場も評価する。否定的な面ばかりではない」などと答弁。

 しかし“市場の評価の高い熊本・田の浦の甘夏ミカンが十キロ五千円から、たった五百円に下がった”“トマトを作って三十年になるが、今まで経験したことがない安値”“米価が一俵五千円下がった。最初の一〜二年はなんとか持ちこたえたが、もう限界だ”――という悲鳴が続出しているのが現実。

 「消費者に好まれるもの」であっても、一律にバッサリ買いたたかれているのが実態です。それにもかかわらず「市場原理にもとづき、希望を持って生きていけ」とは、なんと実態知らずの冷酷な言い方でしょうか!

“逆立ち政治”にキッパリ審判を

 三十五年前に牛乳や砂糖の価格保障制度ができた理由の一つは、大企業の買いたたきにまかせたのでは農民が再生産できず、食料自給率も上がらないから。

 大企業の買いたたきが激しくなっているいま、わざわざ価格保障を廃止するなどというのは、農業のイロハも、政治のイロハも知らない者のやること。しかも価格保障廃止によって、いま野菜や果実、米で起きている暴落が、畜産物や大豆、砂糖作物にも波及することは必至です。

 “白バイの練習場”にしかならない農道空港をはじめ大手土木業者を潤すだけのムダな公共事業には一兆七千億円も使いながら、価格保障には三千億円たらずの予算しかつけない。

 一方、自民党政治の“本家”アメリカでは、小麦や大豆の暴落にあえぐ農民に対し、当初予算の三倍以上の一兆七千五百億円(日本の価格保障予算の六倍)もの価格・所得保障予算を注ぎ込んでいます。アメリカの農家所得のうち、実に四割は、こういう価格保障によるのです。

 自民党政治の逆立ちぶりは明らかです。

 しかも農水省によれば、これは「大統領選挙をにらんだ大盤振る舞い」。アメリカは選挙の直前に価格保障予算を増やし、日本の自公保政権は選挙の目前に価格保障制度を廃止する農民に対する態度の逆立ちぶりも、相当なものです。

 こういう逆立ち政党・政治家にバッサリ票(評)価をくだすこと――これが農民の“市場原理”“投票原理”ではないでしょうか。

(M/新聞「農民」2000.6.5付)
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2000年6月

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