アメリカ農民と遺伝子組み換え食品――ワシントンで感じたこと――食品分析センター技術顧問 杉田 史朗「ラリー・フォー・ルーラル・アメリカ」(アメリカの農村のための集会)に参加する真嶋良孝さんと一緒に、三月十九日から二十四日までワシントン・D・Cを訪問しました。ほんの短期間でしたが、アメリカの若い農民や活動家と交流し、遺伝子組み換え食品をめぐる実態をかいま見ることができました。
若い後継者の集まるパーティーで二十日夜、全米家族農業者連合(NFFC)のメンバーと夕食をとった後、若手の活動家が集まっているバーを教えてもらい、単身で乗り込みました。幕張のNGO集会で知りあった友人ともそこで再会でき、ビールを飲みながら、若い農業後継者やNGO活動家と直接話をすることができました。 酪農をお父さんから引き継いだばかりの青年は「俺は絶対に遺伝子組み換えのえさは使わない。でも問題が複雑でむずかしい。だから、遺伝子組み換えについてなにか聞かれたら、とにかくノーとだけ言おう」と話していました。 また大学を卒業して活動家になった青年は、さかんに難しい議論をふっかけていました。若い世代はどこの国でも同じような議論をしているのだと思い、ほほえましく、かつ頼もしく思いました。 日本での遺伝子組み換え食品反対運動のことは、活動家のあいだでは広く知られているようで、大変に興味を持っていました。「日本の農民は消費者に理解されていて、うらやましい」といっていたのが印象的でした。アメリカの消費者は価格のことが一番の関心事で、食の安全や環境問題等の議論は日本ほど熱心には行われていないようです。
科学者も真剣に動き出した翌日、ホテルで朝食を食べていたら、前日知り合いになった若い女性活動家が「遺伝子組み換えの記者会見があるから一緒に行かない?」と誘ってくれました。マーク・リッチーさんと科学者四人による記者会見では、アメリカでも遺伝子組み換え食品の開発を問題だと考える学者が増え、本格的な研究活動が始まりつつあることが報告されていました。医学の立場から生理学者が、とくにアレルギーのことを中心に研究を進めたいと話し、生態学者が環境に与える影響を詳しく調べるグループができたことを報告しました。昭和電工トリプトファン事件の教訓をいかさねばならないという発言もありました。 ヨーロッパに続いてアメリカでも、科学者が真剣にこの問題を取り上げはじめています。残念ながら日本では、科学者は全くといっていいほど行動を起こしていません。農民運動・消費者運動の分野では、日本は国際的にも評価される運動の前進があるのに……。科学者の一人として、今後の日本の運動の課題の一つであることを実感しました。
GMOを知らない消費者たちまた注目してよいのは、アメリカの消費者が遺伝子組み換え食品のことをほとんどが知らないという報告です。アンケートによると、二五%しか遺伝子組み換え食品ということを知らず、遺伝子組み換え食品だとわかった場合、それを食べるかどうかを聞くと、八〇〜九〇%の人が食べないと答えたそうです。食卓に遺伝子組み換え食品がどのくらい浸透しているかという具体的なデータもなく、消費者への情報は日本より不足しているように思いました。アメリカでトウモロコシのスナック菓子をいくつか購入してきました。食品分析センターで調べ、アメリカ人も遺伝子組み換え食品を食べていることを、実際のデータで明らかにしたいと思っています。 アメリカの農民たちは、日本からわざわざ来たことに驚き、集会に出てどう思うのかと熱心に質問してきました。ラジオ局のインタビューまで受ける始末でした。私たちが日ごろから明確な立場を持ち、運動をしていることが、大変に好意的に受け止められたようでした。この人たちとなら友情と連帯を深めることができると確信しました。 アメリカでも農民が政府と多国籍企業によって苦しめられています。二十一世紀に向けて、農民の国際連帯が重要になってきます。「地球規模で物事を考え、地域で行動しよう」というスローガンがますます重要です。農民連の若いみなさんに、世界にも広く目を向けてもらい、交流を広げてもらいたいと思います。
(新聞「農民」2000.4.24付)
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[2000年4月]
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