怒った顔もどこかユーモラス…「田の神様」のお面づくり農に根ざした芸術創りたい茨城・内原町 松本定雄さん怒った田の神様、笑った田の神様、赤ら顔した田の神様。怖そうなのにどこか温かいユーモアのある大きなお面「田の神様」――茨城県内原町のオブジェ作家、松本定雄さん(62)のアトリエには、田の神様があっちにもこっちにもいっぱい。これまで作ったお面は千個を超えました。「反骨精神」旺盛、大自然に包まれた農村ならではの農民芸術を、と作品作りに取り組む松本さんを訪ねました。(満川)
畑の中にドラム缶畑のひとすみに焼け焦げたドラム缶が並び、かたわらには薪らしき廃材も積まれています。ここは松本さん特製の「焼き窯」。松本さんはこの畑の真ん中で、ドラム缶に廃材を割った薪やモミガラ、それに一抱えもある信楽や真壁の粘土のお面を満載して、大胆に野焼きします。焼き始めたら三日三晩。モミガラは案外火持ちがよく、微妙な火の当たり具合がお面の色合いを変え、深い味わいを出すのだそうです。「こういう広い空間のある農村だからできる芸術をやりたいんですよ。いやぁ実はドラム缶はお金がないから工夫したの」と松本さん。まだ壁板が全部はまっていないアトリエも、庭の野菜ハウスも、鶏ならぬ軍鶏(朝の一声用に飼育)小屋も全部手作り。この飾らない人柄が、怖い顔した田の神様に、なんとも言えない温かさをにじませているのでしょうか。
農の心を表現したかった…「田の神様」は稲田を守り、豊穣をもたらす農業の神様。「作ってみたら田の神様になったんだよ」と、田の神様をモチーフにした理由を、松本さんは力みなく話します。けれどその圧倒的な存在感は「農民の怒り、農の心を表現したかった」という松本さんの思いを伝えてあまりあります。松本さんは北海道士別の農家の出身で、茨城県の鯉淵学園を卒業、三十年以上、茨城県の農業会議所の職員をしてきました。「反骨精神」が芽生えたのは、水呑み百姓と言われた十代二十代の頃から。減反などの農政を推進する保守的な職場にいても「農民はもっと怒っていい」と思ってきたと言います。そして最近は「怒らない農民にも怒っている」と、退職した今も自家用の小さな田畑を耕しながら農民を我が事のように心配します。
農業は物作りの原点「定年からが本当の人生。定年後も続けられるものを」と、勤務のかたわら三十年来、池坊の生け花に取り組んできた松本さん。お面作りは、生け花に使う花器やオブジェ作りがきっかけでした。今はお面を四面つなげた巨大な香炉も制作中です。米談義で有名な講談師、宝井琴梅さんをはじめ仲間もいっぱい。作品が友人にもらわれ、友人が紹介し…と広がっています。松本さんは、力強く呼びかけます。「売るために作るのでは、本当に表現したい芸術はできないですね。農業はものづくりの原点。農村でしかできない、農民芸術を地方から一緒に発信していこうじゃないですか。農民運動も、農業と自然のすばらしさを皆に知らせるものになってほしいですね」。
(新聞「農民」2000.4.10付)
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[2000年4月]
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