遺伝子組み換え技術は21世紀の救世主か、悪魔か〈上〉プシュタイ博士の実験が物語っているもの実験ネズミ 短期間で予想しない変化が
ネズミに遺伝子組み換えジャガイモを食べさせ、その危険性を初めて実証したイギリスの著名な生化学者アーパッド・プッシュタイ博士が来日。三月十三日に都内で開いた「NGO国際集会」での講演や記者会見などで、自らの実験をもとに「人は歴史的体験から予防の原則を忘れるべきではない。無謀な取り返しのつかない冒険をして、そのあげく不幸に見舞われるのでなく、慎重に段階の原則を守っていくべきだ」と警告しています。プッシュタイ博士が行った実験は、われわれに何を物語っているかまとめてみました。
どんな実験をしたのかプッシュタイ博士は、ある種の植物が害虫などから身を守るために作るレクチン(毒性タンパク質)研究の世界的権威者。イギリスで食品の安全性テストを専門に行っているローエット研究所の主任特別研究員として、一九九五年からレクチンを組み込み、害虫抵抗性を持たせた遺伝子組み換えジャガイモの環境や健康への起こりうる危険性について研究。博士がこの研究を始めたのは「人間や家畜がこのジャガイモを食べるのに、人間が食べて害がないのかどうか、バイオ会社が明確な答えをださないまま実用化を進めている」ためだと言います。プッシュタイ博士は、害虫抵抗性をもつ作物をつくるための遺伝子組み換えをやるには、まず自然界の植物がもっているいくつもの殺虫タンパク(レクチン)の中で、どの殺虫タンパクを使えば最も安全かを、若い成長期のネズミを使って予備試験をしました。その結果・マツユキソウのレクチンを千倍の濃度で与えてもネズミの内臓などに影響がないことを確認。この最も安全なタンパクを選択してジャガイモに組み換え、同じ畑で全く同一の条件で隣同士で栽培したものを元の非組み換えジャガイモと組成を比較しました。 するとまず明らかになったことは、組み換えと非組み換えのジャガイモでは、タンパク、でんぷん、レクチンの成分や、トリプシン(すい臓から分泌されるタンパク質分解酵素)の阻害、可溶性などの点で大きな違いが現れ、同等とはいえない。つまり遺伝子組み換え作物は、非組み換え作物と比べ、組成成分などが同じで、安全だとしている「実質的同等性」の概念は、根拠がないことが判明したと強調しています。 ところで、こうした遺伝子組み換えジャガイモを、ほ乳動物に与えた場合にどの様な影響があるのか。
比較実験で明らかになったものプッシュタイ博士は、まず若い成長ざかりのネズミ(若い動物は健康なおとなになる過程で、栄養的ストレスや代謝作用のストレスが現れやすく、顕著に反応するため)を使い、(1)遺伝子組み換えされていないジャガイモを餌とした場合(2)組み換えしてないジャガイモに殺虫タンパク(レクチン)を遺伝子組み換えで発現する量と同じだけ添加した餌を与えた場合(3)遺伝子組み換えされたジャガイモを餌として与えた場合の三つの方法で、摂取期間も十日〜百十日間と変えて実験を行いました。その結果、実験を始めて十日後には、遺伝子組み換えジャガイモを食べたネズミは、生命維持に必要な諸器官、肝臓、心臓、肺、脳、腸などの成長が遅れたり、重量が低下。さらに胃腸の内壁が肥大化したり、リンパ球が増大するなど免疫機能が著しく弱まり、ウイルス(細菌)の感染症状も認められたのです。 これにたいして非組み換えのジャガイモやマツユキソウのレクチンだけを添加したジャガイモを食べさせたネズミには、まったくそのような影響は現れず、健康だったといわれます。 プッシュタイ博士は「この結果は、研究者にとって全く予期しなかったことだった」と語り、「ネズミで十日から百十日という短期間に、このような変化が起きたことは、人間にすれば五年から十年後に起こる変化だ」と言います。いったいその原因はどこにあるのか。われわれが、これを食べつづけて何年か後にどうなるのでしょうか。 (つづく)
(新聞「農民」2000.4.3付)
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[2000年4月]
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