「農民」記事データベース20000327-443-03

大資本による農地と食料支配に道を開く「農地法改悪案」


 小渕内閣は三月三日の閣議で、大資本の農地取得に道を開く「農地法改悪案」を決定し、国会に提出しました。食管制度の解体に続く戦後農政の“総決算”の一環であり、改悪反対の運動を強める必要があります。

 これまで、農地を買ったり借りたりできるのは農地を自分で耕作する農民に限られてきました。また、法人に農地の売買・貸借を認める場合でも、あくまでも農民の集団であることが保証される形態(農事組合法人や合名・合資・有限会社)に限って農業生産法人として認めてきました。

 これが農地法の「耕作者主義」と呼ばれる原則で、大資本の土地投機に対する規制が野放しの日本では、事実上、農地法が土地投機に対する規制法として機能してきました。

大資本が参入しやすいように制限取り払う

 株式会社は資本主義の最も進んだ企業形態で、株の売買は原則として自由で、株を買った者はだれでも経営を支配できることになります。

 経営権が固定されている合名・合資・有限会社と違い、株式会社の場合は農民の集団であることが保証されない――これが、農業生産法人の形態として株式会社が認められてこなかった理由です。

 しかし農地法改悪案ではこの制限を取り払い、農業生産法人の形態として株式会社を認めるとともに、農業生産法人の構成員(出資者)としてアグリビジネスや商社、大スーパーなども認めることにしようというのです。

 「これでは農地が投機の対象とされるばかりか、農業に対する大資本の支配が進む」――こういう多くの農業関係者の反対の声をなだめるため、政府はいくつかの条件をつけています。

抜け穴だらけの「株式譲渡制限」措置

 最大の条件は、今度認めるのは株式会社一般ではなく「株式の譲渡制限」を定款で定めている株式会社に限るとしていること。この場合、取締役会の承認なしに第三者に株式を売買できないことになり、経営権が農民以外に移ることはない――という理屈です。

 しかし第一に、株式の譲渡制限は、同族会社などが第三者の支配を避けるために行うもので、株式は上場されません。株式会社が有利なのは、株が広く売買されることを通じて資本と資金を集められるところにありますが、譲渡制限をかけた場合、それは望めません。

 もともと株式会社容認論者は「広く資金と人材を集めることによって、農業を活性化できる」と言ってきたはず。ところが譲渡制限企業では、それは不可能。いったいこの矛盾をどう説明するのでしょうか。

 第二に、大商社やスーパーが乗り込んできて、最初は「譲渡制限」を行うことにしていても、取締役会が承認すれば誰にでも株を売ることができます。さらに定款を変更すれば、この制限は取り払うことも可能。これをチェックするのは農業委員会だということになっていますが、町や村の農業委員会がここまでチェックできる保証は何もありません。

 結局「小さく産んで大きく育てる」――本当のねらいは「条件付き」という目くらましで株式会社形態を導入しておき、やがては無制限に大資本の農地・農業支配を認めることになるのは必至です。

農地と食料をネタに大資本のもうけに道

 また、改悪案のなかに大資本の進出に見合う「条件整備」が盛り込まれていることも重大です。

 その一つは役員構成要件の緩和。これまで農業生産法人の役員の半分以上は自ら額に汗して農作業に従事する農民でなければなりませんでした。農民が主宰する法人としては当然のことです。しかし改悪案では、四分の一以上に緩和され、農作業に携わらない経営者が大部分を占めてもいいことになります。

 もう一つは法人の事業範囲の無限定な拡大です。これまでは「農業及びこれに附帯する事業」に限られてきたのを、「主たる事業が農業」でありさえすれば、あとはパチンコ屋をやってもいいし、サギ商法まがいの事業をやってもいい、「事業種類は限定しない」(農水省「農業生産法人制度検討会報告」九九年十一月)というのです。

 結局、農地と食糧という国民にとってかけがえのない財産をネタに、日本の大資本がこれまで以上に「ルールなき資本主義」の本性をむき出しにして大もうけする道を開く――農地法改悪案は、こういうとんでもない青写真の第一歩をきざむものです。

 新農基法にもとづく「食料・農業・農村基本計画」では、消費者に“食い改め”を押しつけ、消費の「節減」によって自給率が「向上」するとしています。しかしその一方で農地の転用をさらに二十三万ヘクタールも見込み、二〇一〇年の農地面積を二十一万ヘクタール減の四百七十万ヘクタールとしています。

 価格保障を廃止し、農地法を解体する――こういう政策のもとでの「自給率向上」は絵に描いたモチ以外のなにものでもありません。

(新聞「農民」2000.3.27付)
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2000年3月

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