「農民」記事データベース20000306-440-08

国際シンポ

コーディネーターのまとめ

農業・農協問題研究所理事長 暉峻 衆三


 「人民の人民による人民のための政治」という言葉がありますが、私たちは「市民の市民による市民のためのシンポジウム」をもつことができたといえるのではないかと思います。

 このシンポジウムは、財界や統治機構と一切関係がありません。ここに集まっのは、自分のお金で、あるいは仲間からのカンパで、農業・食糧あるいは林業の将来を、世界に目を開きながら考えていこうと、自発的に参加した人々です。

 この集まりは、外国からのパネリストを招いたという点で多彩であったと思います。そして、私たちは、外国の良き友人を得ることができたことをとてもうれしく思います。

 もう一つ、農民、労働者、消費者、生協関係者、研究者、そしてNGOの活動をしている方など、きわめて多彩 な方々が六百五十人参加されました。そしてフロアからの発言も十七人からいただくことができ、非常に短時間でしたが、とても熱心に討議をすることができたといえると思います。

 以上のような点から、私は世界に誇っていいシンポジウムだったといえるのではないかと思います。

 このシンポジウムでは、大きくいって、グローバル化のもとでWTOが多国籍企業・巨大企業の支配の重要な道具になっていること、そして、農林業・食糧、食文化を含めた広い意味での文化に対する影響を全世界に全面 的に広げていることが指摘されました。

 みなさんは、三人の外国代表の方々の報告を聞いて「オッ、これは日本と同じだ」と感じられたと思います。巨大な農産物輸出国と巨大な農産物輸人国という大きな違いにもかかわらず、さまざまな点で共通 の事態が進行していることが種々指摘されました。

 具体的には、第一に日本でもアメリカでもヨーロッパでも韓国でも、農林業を担っている家族経営の解体・破滅が急速に進み、農業の危機が進行しており、農林業の多面 的機能もいろいろな側面で破壊されていることが指摘されました。

 これに批判の目を向け、破壊を防ぎ、守るべきものを構築していこうという運動――伝統食、学校給食、産直運動などのさまざまな運動が起こっていることがパネラーからもフロアからも紹介されました。

 また、オノラティーさんは大きな視野をもった地域の運動の積み重ねとつながりが国内と世界に広がっていくことが大きな力になることを指摘しました。

 第二に、リッチーさんとオノラティーさんから、ダンピング輸出の弊害――世界の各地域の農業を破壊し、そしてWTOのルールとかかわって各国の農業政策の手をしばり、農業を危機に追い込んでいる重要な条件になっていることが指摘されました。どうしても、これをやめさせなければならないこと、また、各国における価格支持政策の重要性が指摘されました。

 第三に、食糧の安全性が強く脅かされていること、同時に、バイオテクノロジーにおけるアグリビジネスの進出のなかで、遺伝資源が資本によって独占され、農業と農産物の多様性も失われようとしている危険性も指摘されました。

 第四に、食糧危機が進行しているもとで、どうしても食糧主権を確立する必要があること、農林業を再構築する必要があることが指摘されました。

 WTOのもとでのグローバリゼーションがもたらす弊害が全世界と全分野にまたがっていることから、それに対する批判と抵抗、連帯もまた、グローバル化しています。そうならざるをえない条件が強まっています。そういう意味で、われわれは新しい時代を歩みつつあります。

 各パネリストの主張を全体として見ると、WTOのルールを根本的に改定する必要があるという点では一致していたといえると思います。

 WTOの自由化体制をさらに進めようとするシアトルのWTO閣僚会議が、大きくつまずきました。これは多国籍企業とそれに依拠する政府にとっては、非常に大きな驚きであり、打撃であったと思います。

 しかし、彼らはそれで打ちのめされたわけではありません。彼らは意見の違いや困難が出てきても、国際的に交流し、違いを調整して、なんとかWTOのルールを再構築しようとしています。われわれはこの事態を決して軽視するわけにはいきません。

 われわれは金も乏しく、権力も持っていません。しかし、われわれは、明日、人間としてどう生きていったらいいのかということを良心をもって真剣に考えることができます。そして、多国籍企業やそれに依拠する政府に比べて、圧倒的多数を占めています。

 私たちが国内でも、国際的にも連帯を強めていく努力を怠らないならば、WTOのルールを基本的に人間の生活に則して変えていくことが可能になる時代がくるに違いないと思います。

 このシンポジウムでの連帯を基礎にして、明日からの行動を進めていこうではありませんか。

(新聞「農民」2000.3.6付)
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2000年3月

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