小林代表常任委員の開会あいさつ
明けましておめでとうございます。去年一年、また、大会へ向けての諸活動、ほんとうにご苦労さまでした。昨年に引き続いて、全国の組織が代議員権をもって参加して開けることも嬉しいことであります。
一年を振り返って去年の大会で「もし新聞『農民』をもっと多くの人が読んでいたらコメの関税化なんか許さなかったのに!」という思いから、「農民」の読者を増やすことを先行して、農民連の組織を大きくしようと誓い合いました。そして、新聞「農民」号外を四回、四百万近くを発行し、全国的に自主目標を立てて定期読者を増やす運動が進みました。その火付け役を果たしたのは「決めたことをやり切ったことがあるか」という痛烈な自己分析をした秋田県連でした。その刺激を受けて夏の全国研究交流集会以後、新聞「農民」の普及運動が進んで、自主目標をやりとげた県連や組織が九府県で、四十五府県連が昨年より増勢しました。農民連の新たな高揚が始まったと言えるでしょう。 年間を通じて持続的に、新聞「農民」の普及に努力し、しかも役員だけでなく会員も一緒に「農民」を普及した新潟の西蒲原の地道な奮闘や、長野・石川・新潟・茨城・大阪・京都・宮崎・三重の各府県連が自主目標を達成しました。 組織の拡大の面では、七年間に会員を二十五倍に増やした福島県・須賀川や、十二年間に会員千人以上・六百世帯へと増やした茨城・県西農民センターの経験、愛媛・野村町の百姓百品の運動で増やした例、あるいは栃木や長野が組織のないところに農民連を作ったなど、貴重な前進がありました。 去年はまた、青果物の新しい市場流通が、埼玉の上尾市場から東京の北足立や築地の市場などへ広がる展望が生まれました。東北・北海道ブロックのネットワークによる米の卸・小売商を通じた流通が始まったことをはじめ、各地で生産・流通に関する運動が進みました。私たちが「生産と流通の変化に対応した産直運動の多様な探究を」(雑誌『農民』No.47)という立場でまじめに対話すると、流通関係者も真剣に耳を傾けて対応してくれるのが、最近の大きな特徴です。 これらの成果はまだ端緒ですが、非常に重要な前進だったと思います。さらに本格的な運動をするなら、この悪政のもとでも、会員と新聞を増やし、ものを作る運動、市場流通への新たな接近という点でも、世論を変えるうえでも、さらにはWTO協定の改定の運動でも、間違いなく非常に大きな力になるでしょう。 この大会はWTO協定の改定という非常に大きい目標と志を掲げ、そのために一人一人の力を発揮し、仲間を増やし、広範な人や組織と共同を広げるスローガンを高々と掲げた大会です。
広範な仲間ともに―共同することの緊急性農業の現状は非常に大変です。どうしたら、この情勢を切り開くことができるでしょうか。いうまでもなく世論を変え、運動を強めるしかありません。ところが、運動していると、縦割りの組織によって、ともするとカベが邪魔になります。そして、そこから広範な人に訴えたり、農協などとの協力・共同を諦める傾向なしとしません。どうしたらいいか、現場から考えてみましょう。たとえば。いま、政府は「水田を中心とした土地利用型農業活性化対策大綱」で、麦・大豆は転作ではなく“本作”で作るんだといっています。それはコメの関税化・輸入の拡大に伴って減反が増える印象を薄める猿知恵です。 農協も一体になって進めています。私たちとは、ある意味では相容れない立場です。 しかし、現場で大豆や小麦を作る農民にとってみれば、同じ品種を作り、同じ作り方をし、ほぼ同じ時期に収穫をします。誰でもいい大豆をたくさん穫りたいし、なるべくいい値段で売りたいという願いは、所属する組織が違っても全く同じです。 ここに一致点を広げられる根拠があります。この一致点にもとづいて力を合わせようではありませんか。そうなれば、上部組織がどうであれ、農協の支所や生産部会との共同の条件は生まれます。底辺では要求は同じですから、少し粘り強くつきあえば、必ず何らかの前進があるでしょう。どんな作目でも、あるいは生活上の問題でも、同じではないでしょうか。 現在の農業危機の深刻さと速さを考えるとき、農民の切なる願いに応えるためには、共同を地域から広げることが欠かせません。しかも、この現場での取り組みを考えるとき、まさに一人一人が主役です。ここに展望の根拠があります。
一人一人の声に耳を傾けてこそ飛躍がこういう共同の条件があり、しかも、農村はいま大きく変わりつつあるとき、なぜ、会員や新聞拡大で大きな「飛躍」が生まれないのでしょうか。上から見下ろすのでなく、また「教える」のでなく、一人一人の農民の声に謙虚に耳を傾けることが大切ではないでしょうか。現場の農民がどういう思いなのか、何を考えているかをリアルに知るそこからみんなの得手を生かしたり、エネルギーや自発性が発揮されるのではないでしょうか。
新聞「農民」の普及は組織と運動の土台世論と運動、組織の発展にとって、もう一つ大事なことは、新聞「農民」の普及であることはいうまでもありません。農民連という名前も知らない農民がまだまだ非常に多いことを考えると、新聞「農民」を普及することなしに会員の拡大は望むべくもありません。同時に、会員を増やすことは、独自に追求しなければならないことは言うまでもありません。
WTO協定の改定を危急存亡の日本農業と農民経営を守るうえで、もう一つ大きな問題はWTO協定の改定です。政府が「WTO農業協定の改定など、世界中で聞いてくれるところはない。日本は孤立しているから、そんなことは無理だ」という宣伝をしているので、そう信じている人も多いようです。しかし、シアトルでの閣僚会議が決裂した背景に、農業問題だけでなく、多くの課題で途上国の意見が入れられないとか、アメリカなどの横暴な運営があったといわれますが、世界のNGO(非政府組織)と途上国の力があったというのは、マスコミも一致して報道しています。そういう点から見れば、農民連・食健連が行った国際的な交流は非常に大きな意味を持っています。とくに、九六年のローマ食料サミットのときにNGOフォーラムの議長を務めたアントニオ・オノラティー氏や、韓国の全国農民会総連合(韓国全農)、さらに、全米家族農業者などとの交流が深まりました。 二月に開かれる国際シンポに参加して話し合えるほど交流が深まりました。将来きっとWTO農業協定改定で、NGOと途上国とともに戦える展望につながるもので、非常に重要な前進でした。 この成果を生かし、発展させるうえでも、諦めている人たちを励ますうえでも、二月二十日、二十一日の国際シンポを成功させることは非常に大事です。奮ってご参加下さい。
『蒼天の夢』(あの雲の上に青い大空がある)を!以上、昨年一年の組織と運動との特徴と、今後の展望について述べました。みなさん。「日本は国際的に孤立している」という宣伝を打ち破るうえで、世界のNGOと連帯する糸口ができました。国内的には、生産を抑え、買いたたく嵐が吹きまくるなかで、どっしりと大地に足を下ろしてものを作り、国民的な視野で価格・流通問題に手掛かりを作り始めました。 あと必要なのは、政治を変えることです。私たちが大志を抱くことです。 お正月の三日の夜、NHKの時代劇『蒼天の夢』をご覧になりましたか? それは幕末期・維新前夜、高杉晋作が吉田松陰亡き後、どのように長州藩を倒幕に決起させたかを、奇兵隊員に回想的に語る二時間の番組でした。 安政の大獄で全国の幕府批判分子は空前の弾圧・処刑で大打撃を受け、長州藩は朝廷から見放され、藩の倒幕派の主要な幹部がほとんど殺され、外国艦の砲撃で大打撃を受け、幕府を倒す運動倒幕の事業がもうほとんど絶望的に見えたとき、「あの暗雲の上には広い蒼天(青空)が広がっている」と、時代の流れと大局を見る亡き吉田松陰の教えを噛みしめて、傍から見れば狂気とも見えるたたかいの火蓋を切りました。この戦いに勝って藩執行部を倒幕派に変え、ついに第二次長州征伐の幕府軍を打ち破ってしまいました。そのときは、まだ、坂本竜馬も西郷隆盛も長州に何の応援も約束もしていない時期でした。 当時としては「奇兵隊」という最も新しい組織を作り、最新の装備をもち、緻密な戦略をもって、立ち上がったわけですが、最初に蜂起して奇兵隊全体を動かすときはわずか三十人でした。まさに狂気の沙汰でした。それは逆上して見さかいがつかなくなったのではなく、戦力の裏付けと的確な情勢判断にもとづく決断と果敢な行動と情熱「狂気の沙汰」が天下を動かしたのです。 それにしても、その根本に「どんな人にも必ず長所、すぐれた点がある」「この人たちを百姓・町人などと身分で差別せずに団結する」という松陰の教えが、あの狂気のように燃えるエネルギーを作りだしたことは歴史の厳然たる事実でした。私たちの運動にとっても示唆に富む『蒼天の夢』の番組でした。 この大会で提起される方針を、組織を挙げて議論し実践したら、このどうしようもない危機に「蒼天の夢」を正夢にできるそのために高杉晋作の「狂気の沙汰」にあやかろうではありませんか。 総選挙は絶好のチャンスです。大阪府知事選挙、京都市長選挙はその前哨戦で、総選挙にも大きな影響を与える選挙です。両候補は農民連としても推薦しています。全国からの支援を集中したいと思います。 最後に。大会は、議案と皆さんの討論が二つの柱です。活発な討論を心から期待し開会挨拶にします。
(新聞「農民」2000.1.24/31付)
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[2000年1月]
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