「農民」記事データベース20000117-434-02

新聞「農民」第2回写真コンクール

受賞作品決まる


 新聞「農民」の第二回写真コンクールには、二十五人から八十五点の応募がありました。

 写真家の橋本紘二氏と本紙編集部立ち会いのもとで厳密な審査をおこないました。その結果、次のとおり受賞者が決まりました。

 特選 秋田市・佐藤義敏さん(賞金二万円)

 入選 東京都大田区・石井美恵子さん、山形県上山市・菊池喜英さん、京都府八木町・宅間正夫さん(賞金一万円)

 佳作 東京都板橋区・田中山五郎さん、埼玉県所沢市・斉藤裕子さん(賞金五千円)

 努力賞 山形県鶴岡市・菅井太吉さん、新潟県豊栄市・松井三男さん、群馬県富士見村・下田嘉文さん、岩手県松尾村・石附萬亀雄さん、静岡県清水市・矢入博美さん(記念品)

 ※特選以外は順不同。


選評/橋本紘二

農民の目、生活者の目で…

 応募者が少なかったのはちょっと気になりましたが、ひとりで二作品、三作品も送ってきた人が多く、意欲を感じました。

 応募された人たちは、農家の方や農村に住んでいる人、農業を応援している人たちで、地域の農業やその暮らしぶりを撮った写真がほとんどで、これはすばらしいことです。選評していてうれしくなりました。

 今は風景写真が流行っていますが、風光明媚に美しく撮るだけが写真ではありません。みんなが同じものに興味を持ち、撮るというのは気持ち悪いことです。みなさんは農民なら、農民でしか気にしないことや大切にしていることがあるはずです。例えば、畦立てした跡の美しさやトラクターの上から見えるアングルなど、プロでも撮れない興味と視点があるはずです。無理して上手に写真を真似しなくともいいのです。

 写真を撮る喜びは上手く写ることよりも、現場で見たこと、認識したこと、考えさせられたことなのです。それは現場にいたあなただけのものなのです。貴重なことなのです。

 カメラはとても正直です。見たとおり写ってしまいます。漠然と見ていては他人に伝わる写真にはなりません。強い興味と「これは写したい」という意識とこだわりが必要です。

 カメラは機能がオート化され、簡単で使いやすくなりましたが、撮る人の興味まで考えてくれません。ぜひ農民の目、生活者の目で撮って下さい。それはあなたしか撮れないのです。農民側から、今日の農業や農村の時代を証言していく写真が必要とされています。

 特選の佐藤義敏さん=東北秋田の五月は春になったとはいえ、まだ寒いのですね。その「まだ寒い東北の春」をビニールハウスのなかでの花見宴会で表現しようとした佐藤さんの着眼がすばらしい。この作者は東北の風土や農家の暮らしぶりにいつも気にして見守っている人なのでしょう。外の寒さとビニールハウスのなかの温かさを強調するために夜に撮るというのも考えた表現技術ですぐれています。鯉のぼりが元気なく泳いでいるさまが情感をさらに増してくれました。

 入選の石井恵美子さん=田植えどきのお茶タイムの光景なのですが、道路まではみだしてシートを敷き、休んでいるのがいいですね。「この時季は農家が主役よ」と言いたげな光景がほほえましい。おじいちゃんも親たちも後ろ姿なので、前に回り込んで皆の顔が見えるポジションから撮りたくなるものですが、それぞれの背中に表情があるのでこれでいいのです。遠くで道をのんびりと歩いている二人を逃さず入れたシャッターチャンスも良い。

 入選の菊池喜英さん=黙々と畦塗りをしている光景が、田んぼを守ってきたお爺さんの信念が伝わってきます。お爺さんをカメラのほうに顔を向けてもらうようなことをせず、鍬先に気を入れ、黙々と仕事する姿に感動してシャッターを押したのが良かった。

 入選の宅間正夫さん=子どもの表情に感情ある瞬間が撮れました。男の子が得意のポーズをしているのがいかにも現代っ子で、そこにシャッターチャンスを合わせたのが良かった。後ろの働く婦人を入れたことで日常性が強くなった。

 佳作 田中山五郎さん=カメラマンが踊り子に近づき一緒に機敏に動き回ったことで、躍動感ある写真になりました。斉藤裕子さん=お母さんの顔の表情がいいね。親しげで優しく語りかけてくるようです。作者はこの人と知り合いなのでしょうか。撮る、撮られるの関係がなく、とても自然に写ってくれました。

 努力賞 菅井太吉さん=写真上は「田んぼに入るのはまだよ。その前に注意を聞きましょうね」と先生の声が聞こえそうなタイミングでほほえましい。写真下は田植え光景ですが、手前に墓石を入れ込んだのが上手い。松井三男さん=たわわに実った稲を見て、興奮して田んぼに走り入ったこどもの様子を見逃さず、カメラを向けたのですね。その一瞬がみごとにとらえられました。望遠レンズを使ったので子どもの表情がはっきりとわかるように写りました。下田嘉文さん=桑畑を切り倒さなければいけなくなったのですね。ひとつの時代が終わったことが切なく知らされます。後ろの写っている住宅は新住民たちの進出なのでしょうか。立派な家なのですが、農家の家造りではないことがつらい風景です。時代の状況がきちんと写しとめた証言写真となりました。石附萬亀雄さん=軒先に干したダイコンに、秋の陽があたる時間帯を選んで撮っているので、主題のダイコンが印象的に写りました。左手前や後ろに紅葉した木を入れた画面づくりは神経がいきとどいており上手い。矢入博美さん=今、遺伝子組み換え農産物が時代的な問題として持ち上がってきました。撮影者も大豆畑トラスト運動をしているのでしょう。自分たちの運動をきちんと撮ろうという姿勢は大事なことです。雰囲気ある写真になりました。

(新聞「農民」2000.1.17付)
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2000年1月

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