農村の現実は厳しいといわれるが…農業に憧れつづける私が長野・栄村を歩いて感じたこと…「若者と農業を語る集い」に参加/佐藤 圭(東京農大三年)「私は栄村に行って、今まで『農業は厳しいもんだ』と理解しているつもりだったけど、それは本当に“つもり”だったことに気がついた。矛盾の吹き溜まりになっている農村。そして農民たちはしっかりとその現実を知っていた。私は、自分の足で歩き、様々な人に出会って、やっと理解できた」――。農業を夢見る東京農大三年生の佐藤圭さん(20)が、十一月末に長野県栄村で開かれた「若者が語る農林業の集い―語ろう夢を、見直そう郷土の味を―」に参加しました。専業農家だけでなく村内のすべての青年に呼びかけたこのような集会は、全国的にもそうないこと。「雪深い山村で農業を抜きにして栄村は語れない」と高橋彦芳村長。集落営農グループの中心として活動している青年、自分で搾った乳をアイスクリームに加工して直売所で販売している若者が、自らの体験を発表。その後、“雑穀びら”など郷土の味を楽しむ収穫祭が開かれました。さて、その中で、都会で生まれ育った彼女の見て、聞いて、感じたことは――。
私が憧れているのは、自然の中で、自然の力と人の力が一体となって作り出すことができる農業という産業だ。栄村の人たちが収穫祭で出した農産物はどれも「いいなー、作ってみたいなー」と思うものばかり。そして何よりおいしい。これぞ農業の醍醐味だ。 私が失望するのは、作りたいという農民がいるのに市場原理で輸入品と競わせ、効率が悪いと切り捨てる農政。アメリカの大規模農業と栄村の棚田では競い合えるわけがない。じゃあ栄村から農業をなくしていいのか?その答えを見つける旅だった。
現実は厳しい…だがおもしろさもあるという初めに話を聞いたのは、肉牛と水稲一・五ヘクタール、大根一ヘクタールを経営する保坂良徳さん(43)。焼肉の肉とソーセージを配る笑顔がやさしい。高校一年の子がいるって言うから、もうビックリ!。さっそくとばかりに「なぜ農業を?」の問いに、「小さなころから後継ぎと言われてきたから、他の職業に就こうなんて考えなかったよ」って農業に就くまでの道のりを振り返ってくれた。私は東京のサラリーマンの家庭に生まれながら、小学校の卒業アルバムに「お百姓さんになりたい」と書いた。農業に強く惹かれて十三年。大学でも農業を学んでいるが、現実を知れば知るほど農家になることの難しさが見えてくる。 保坂さんは、私以上に農業の厳しさを知りながらも長男として農業を継いだのだろう。「農業は厳しいよー」という口調に実感がこもっている。はじめの頃は、いい肉つくろうなんて考えなかった。ただ仕事をこなしているだけだった。夜になると車で遊びにいくのが楽しかった。結婚して今やっと、「農業がおもしろくなってきたよ」と笑ったのが印象的だった。
「集落営農で農村を守る」忘れられない村長さんの言葉広場に座り込んでビールを片手に話し込んでいたのは、体験発表で発言した小林高行さん(32)と、その仲間の阿部和彦さん(38)。ずうずうしくも話を聞かせてくださいと割り込んだ私に、エノキ栽培と水稲を経営している阿部さんが丁寧に話をしてくれた。栄村では今、田植えや稲刈りを機械化し共同ですすめる集落営農が絶好調。「ここの村長さんの農地を守るって考えからきてるんだ。村長のその考えに応えて、若いもんも機械を使ってやっていこうってなったんだ」。私はこの言葉が忘れられない。農業を守るために力入れている村長さんがいるってことが、栄村の人たちにとって何て力強いんだ。集落営農のおかげで、高齢化や兼業化が著しい栄村でも米作りができる。 「しかし最近は、豊作を喜べなくなったよ。ああ、また米価が下がるって。おかしいだろう。俺なんか、米が儲からないから壊れた機械をエノキの儲けで直してんだよ」。そ・う・だ・っ・た!
夢のない農政――でも、あきらめず精一杯声をあげようアメリカの顔色ばかり見ている政府ときたら、「MA米はきっちり輸入します。日本の農家さん、米が余るんで減反してください。それでも余ったらエサ用にしますよ」ってな感じで…いったいどこの政府なんだ!。日本中の農家が一揆を起こさないのが不思議なくらいに思えてくる。「子どもに農業を継いでもらいたいですか?」の問いに、「現状が現状なだけに、継いでくれなんて言えんよ。好きなようにしてほしい」と顔を曇らせる阿部さん。これが本当の現実なんだ。担い手対策なんて言っているけど、農家の長男さえ農業を継がない。農水省は、なんで農家に夢を見させないんだろう。 「あなたが農業の何を勉強しているのか知らんけど、農業ってのは実際に農家の人と話したり、作業してこそ理解できるもんだよ」。私は、阿部さんのこの言葉をしっかりと胸に焼きつけて、これからも現場の農業を知る努力をしていきたい。 私は正直なところ、きびしい現実をつきつけられて、帰ってからしばらく意気消沈していた。でも、考えるうちに、黙ってあきらめることのほうが本当にむなしいことのように思えてきた。「今ならまだ農業を立て直すことができる!」そう確信した。「農業を守れ!」の声を精一杯あげていこう。国の農政はメチャクチャだけど、栄村の村長さんみたいに農業を守ろうと努力している人がいるんだから。そして何より、矛盾に気がついている多くの農民もいるんだから。
(新聞「農民」2000.1.3/10付)
|
[2000年1月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224
Copyright(c)1998-2000, 農民運動全国連合会