「農民」記事データベース20150216-1153-01

風雲急を告げるTPP交渉

米も牛肉・豚肉も乳製品も大幅譲歩


安倍政権の裏切りは絶対許さない
交渉からの撤退を!

 「米は最大の重要品目であると、アメリカに対し強く強く強く主張している」(安倍首相、2月4日、衆院予算委員会)。「国会決議と整合性が取れるギリギリの線でまとめたい」(甘利TPP担当相)――安倍政権のウソまみれの言明の裏で進む重大な裏切り。TPP交渉が風雲急を告げています。

 秘密交渉下、 進む既成事実づくり

 マスコミ各紙は1月下旬から2月初めにかけて、安倍政権が米も牛肉・豚肉も乳製品も大幅に譲歩する提案をアメリカに行っていると報道しています。細かな違いもありますが、足並みのそろい方は異様なほど。秘密交渉下の徹底した情報管理のもとで、政府が情報をもらして既成事実づくりを進めているとしかいいようがありません。

 表はこれらの情報をまとめたもの。国会決議の「除外」とは「関税の撤廃・削減の対象としない」ことであり、「再協議」とは関税に手を着けずに「将来の交渉に先送りする」こと。ギリギリの線どころか、国会決議と公約を真っ向から踏みにじるものであることは明白です。

TPP国会決議

◆米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖などの重要品目については除外又は再協議の対象とすること。段階的な関税撤廃も含め認めないこと。
◆重要5品目などの聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、交渉からの脱退も辞さないこと。
 13年4月19日衆院農林水産委員会、4月18日参院農林水産委員会
 14年12月の自民党「政策集2014」もほぼ同じ。

 本丸の米に手を着けアメリカ米輸入拡大

 米はミニマム・アクセス米とは別にアメリカ向けに特別枠をつくり、主食米の輸入を5〜20万トン増やすことを検討。日本がこれまで結んだFTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)では、米は完全に「除外」品目にされてきましたが、安倍政権は初めて本丸の米に手をつけようとしています。

 (1)これは、アメリカ向けに第2のミニマム・アクセス米をつくるもの。もちろん、米輸出国のオーストラリア、ベトナムが黙っているはずがなく、米輸入拡大の連鎖になりかねません。

 (2)米価はわずかな過剰で大暴落していますが、このうえ主食米の輸入を拡大すれば、大暴落に拍車をかけることは必至です。

 (3)政府は、米価への影響を抑えるために、輸入増分と同量の国産米を備蓄用に買い入れるとしています。農協系統や農民連が市場隔離のための備蓄米買い入れを要求してもまったく無視してきた政府が、アメリカのためには一肌ぬぐ――これでは“アメリカ向け備蓄”制度です。

 (4)今年から、需給調整のための飼料米を大幅に拡大しようとしていますが、牛肉や豚肉の関税引き下げは、これに完全に逆行します。

 畜産危機のさなかに関税大幅引き下げ

 牛肉は38・5%の関税を9%に引き下げ、豚肉は1キロ482円の関税を50円にまで引き下げるとされています。

 その代わりに、輸入が急増した場合に関税を元に戻すセーフガードをもうけるといいますが、アメリカの主張は「発動しないセーフガード」づくり。アメリカが韓国に押しつけたセーフガードは“竹光(たけみつ)”程度のものです。

 1月に発効した日豪EPAでは「ギリギリの線」として15年かけて関税を半分に引き下げることで合意しました。これ自体が大問題ですが、日米協議では関税が牛肉で4分の1、豚肉で1割に下げられます。これは日豪EPAに自動的にはね返ります。

 さらに、酪農家戸数が激減し、バター不足が深刻化するなど深刻な危機に直面している酪農にも打撃が加えられます。

 アメリカは、自分がオーストラリアやニュージーランド産乳製品の輸入を制限しているのを棚に上げ、日本に乳製品輸入のアメリカ向け特別枠を要求。日本もこれに応える方向です。

 譲歩に次ぐ譲歩一番危ない安倍政権

 これらの譲歩提案のほとんどは日本政府が行っているもの。

 もちろん、この線で落ち着くかどうかは不明です。アメリカの米輸入要求は20万トン、日本の提案は5万トン。牛肉・豚肉の関税を何年かけて引き下げるかも懸案です。

 日本の譲歩の見返りにアメリカが譲歩カードに使っているのは、わずか2・5%の自動車部品関税引き下げです。為替レートが100円から2・5円変動すれば及収できる程度の関税引き下げの見返りに米まで差し出すなどというのは、交渉の名に値しません。

 安倍首相は「自民党には強い交渉力がある」と大見えを切りますが、実際の交渉力はゼロ。こんな政権にTPP交渉をまかせるわけにはいきません。今こそ交渉から撤退させるときです。

 本当に交渉は進むのか?

画像  日本のマスコミは「交渉は大詰め」と書き立てていますが、本当でしょうか?

 いまアメリカで浮上しているのは、アベノミクスの根幹である日本の円安誘導をTPPで規制しろという議会の圧力です。しかし、通商協定にとうていなじまない為替操作規制をアメリカ政府が持ち出せば、交渉はひっくり返ります。

 もう一つは、乳製品・鶏肉保護に固執するカナダを交渉から除外しろという圧力です。しかし、そんなことをすれば、マレーシアやブルネイなど、交渉から脱退する国が相次ぐことは必至です。

 2月1日まで開かれた交渉は医薬品の特許や国有企業改革など、最難航課題に初めて本格的にチャレンジしましたが、「なお意見が真っ二つに割れたまま」です。

 3〜4月のいっせい地方選挙を目前にして、農業と地方経済、医療や食の安全などに大打撃を与えるTPP決着をはかろうとする安倍政権のやり方は、国民をなめきったものです。農民連・食健連は3月を全国いっせい行動として、国会議員への働きかけや地方議会での意見書採択、中央・地方での集会などにとりくみます。TPPを阻止し、つぶす運動はいよいよ正念場です。

〈君、国売りたまふことなかれ〉

あゝ晋三よ、君を糺(ただ)す 君、国売りたまふことなかれ
三代続きの君なれば 親の情けはまさりしも
詭弁、強弁、ウソ重ね 民を騙(だま)せと教えしや
食まで米国に明け渡せよとて 六十までを育てしや

(新聞「農民」2015.2.16付)
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2015年2月

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