オバマ米大統領が
米輸入拡大を要求
秘密のベールの陰で、米もTPP交渉の対象になっている――。アメリカの貿易専門紙「インサイドUSトレード」(IUT)や日本農業新聞、日本経済新聞などの最近の報道は、こんな危険な実態を浮き彫りにしています。
首脳の政治判断で打開をねらう
日本農業新聞は新年早々の1月5日、「TPP 米が焦点に」という大見出しで「昨年11月に日米首脳が接触した際、オバマ大統領が安倍首相に主食用米の輸入拡大を直接求めていた」と報道しました。牛肉・豚肉の関税撤廃・引き下げだけでなく、米も「聖域」にしない姿勢を鮮明にしています。
アメリカのフロマン通商代表の発言はこれを裏付けています。
フロマン氏は昨年12月3日、与党の民主党議員との密室協議の場で「牛肉については評価すべき前進があったが、米は激しい交渉に入っている」と説明(IUT、14年12月4日)。
つまり“牛肉は一丁上がり、次は米だ”というわけです。
米は輸入拡大、牛・豚肉関税は大幅引き下げ
事実、日本経済新聞(1月25日)は「米国産コメ、輸入拡大」という1面トップ記事で次のように報道しました。
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米輸入拡大要求を報道する日経新聞1月25日付 |
(1)ミニマムアクセス(MA)米のうち主食用に回る売買同時入札(SBS)米のアメリカからの輸入を数万トン増やす妥協案を日本が示した。
(2)アメリカは20万トンの受け入れを要求しており、2〜3月の日米閣僚会談で「双方が折り合える水準を詰める」。
(3)牛肉の関税は15年かけて19・5%(冷凍)、23・5%(冷蔵)に引き下げるという日豪EPAを大幅に上回って「まず20%まで下げ、その後も段階的に引き下げる」。
(4)豚肉は高価格品の関税を撤廃し、低価格品も大幅に下げる。
(3)(4)については日米で「一致したもよう」。
これが事実とすれば日本の全面屈服です。
第1に、アメリカからの主食米輸入量は過去最大の11年が3万4000トンですが、数万トン増やすとすれば2倍を超えることは確実です。アメリカの要求通り20万トン受け入れとなれば、現在のSBS枠(10万トン)の2倍になります。現在の米価大暴落は20万トン程度の過剰が引き金。アメリカの要求に屈すれば暴落は永続化します。
第2に牛肉・豚肉関税の引き下げ・撤廃は、酪農・畜産危機に拍車をかけます。アメリカへの屈服は日豪EPA(経済連携協定)にも自動的に反映されますから、なおさらです。
「日本1人負け」を試算した米農務省
アメリカの要求の根拠になっているのが、昨年10月に公表された農務省の報告です。同報告はTPP交渉が妥結した場合、2025年までに12カ国の農産物貿易が85億ドル増え、日本がそのうち70%を輸入すると、「日本一人負け」を試算。米については、アメリカ産米の対日輸出が2倍強に増えると試算しています。
現在、MA米77万トンのうち36万トンはアメリカ産米。2倍に増えるとすれば、MAのほぼ全量をアメリカが独占することになります。もちろん、中国やタイなどがアメリカのMA米独占を指をくわえて見ているはずはなく、世界第2位の米輸出国になったベトナムもTPP交渉で米輸入の大幅拡大を迫ることは必至です。
“小さく産んで大きく育てる”
もちろん、アメリカの要求は米市場の全面的な開放ですが、これまでの交渉を通じて、それが簡単ではないことをアメリカは知っています。農務省報告は、これを攻略するために「日本の消費者の国産米志向」やジャポニカ米を供給できるのがカリフォルニア州とオーストラリアだけだとして、打撃を小さく見せかけています。
しかし、これはごまかしです。「ビジネスチャンスが日本で生じれば、水が豊富なアーカンソー州ではジャポニカ米に切り替えられる。ベトナムでもジャポニカ米はすでに60キロ当たり1200円程度で生産され……日本の商社などもTPPを見越した準備を始めている」のが実態です(鈴木宣弘・東大教授)。米の国際流通の専門家は、TPPに参加すればアメリカから数百万トン、ベトナムから100万トン輸入が増えると試算しています(伊東正一・九大教授)。
打撃を小さく見せかけ、“小さく産んで大きく育てる”米日合作の策略を絶対に許すわけにはいきません。
(新聞「農民」2015.2.2付)
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