家族従業員の働き分認めない
所得税法56条の問題点
税理士 浦野 広明さん
妻や子どもなど一人前の働き手でありながら、その働き分を認めない所得税法56条を廃止しようという声が広がっています。税理士の浦野広明さん(立正大学法学部教授)に同条項の問題点を聞きました。
所得税法56条は「事業主と生計を一にする配偶者とその親族が事業に従事していても、対価の支払いは必要経費に算入しない」(要旨)と定めています。事業主の家族(妻、子ども、親族など)が従業員として働いている場合は、どんなに長時間働いたとしても、その給料は税法上の「必要経費」に含まれません。配偶者の事業専従者控除額86万円、その他親族の同控除額50万円を除いて、すべて事業主の所得に合算されてしまい、従業員としての給料と認められないのです。
これは戦前の国家権力が、家父長制度の下で、配偶者や家族の人格、労働を認めていなかったことの名残です。日本国憲法の、法の下の平等(14条)、両性の平等(24条)、財産権(29条)などに違反しています。
日本と違って、外国では「家族従業員であるかどうかを問わず、正当な給与は事業経費として控除を認める」(アメリカ)など、多くの国で「家族従業者は従業員と同じ」と扱われています。時代遅れの所得税法56条は不合理であり、一日も早く廃止すべきです。
いま全国で廃止を求める運動が広がっています。民商婦人部が署名を全国で展開していますが、全国女性税理士連盟をはじめ、各地の自治体も廃止を求める意見書を上げています。3月26日には、北海道芽室町で意見書が可決されました。
農業や商工業を発展させる運動と一緒に
運動をすすめていく上で大事なのは、制度を改革しただけでは根本的な問題の解決にはならないことです。所得税法56条を廃止したとしても、零細な農家や中小企業が廃業したり、倒産したりしている現状では、せっかくの改革の効果が生かされないのです。
制度改革を保障するもの、つまり農家や中小業者が農業や商工業で生計を立てられるような基盤が必要です。所得税法56条廃止の運動とともに、農業や商工業を守り、発展させる運動を一緒に進めていくことが求められています。
(新聞「農民」2009.4.27付)
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