ビア・カンペシーナ東南・東アジア地域青年集会
青年には困難を希望に変える力がある
ビア・カンペシーナ(LVC)の東南・東アジア地域青年集会が、3月26〜30日、東ティモールで開かれ、農民連青年部の部長の杵塚歩さんと、本部事務局で青年部会計・国際部担当の武田伸也さんが参加しました。青年集会では、東南・東アジア地域の青年調整委員に、杵塚歩さん(再任)と東ティモールの農民組織HASATIL(ハサティル)のアルセーニョさん(新任)を選出しました。
杵塚さんと武田さんの感想を紹介します。
各国の情報・技術の
交流さらに進めよう
農民連青年部長 杵塚 歩
東ティモールは、450年間ポルトガルの植民地で、その後25年間インドネシアに侵略され、独立を求めて多くの血が流され、10年前にようやく独立を獲得した国です。しかし10年経った今でも侵略のつめ跡は深く残っています。侵略中、インドネシアは輸出のためとゲリラの隠れ場所を無くすために70%の森林を伐採。むき出しの山肌からは赤茶の土が雨水とともに下流に押し流され、その光景はまるで山が血を流しているように痛々しいものでした。
今は新しい国家の再建のために農業、環境、経済など基盤整備がすすめられていますが、そこにも大きな課題があると感じました。政府が2008年1月にインドネシアの企業との間で、東ティモールの農地10万ヘクタールをサトウキビのプランテーションに転換するという覚書を交わしました。同年2月にはオーストラリア資本のバイオ燃料企業と、ヤトロファ(バイオ燃料の原料)の開発に59ヘクタールの農地をあてるとの覚書も交わされています。これに加えて、地域住民の強い反発にもかかわらず、政府は中国企業と重油発電所3基の建設計画を進めています。
東ティモールの青年の話では、国民の多くが1日1ドル(約95円)以下の生活をしていますが、自給自足の生活をしているので飢餓を免れ、暮らしを維持しています。したがって東ティモールの民衆にとって土地と自然環境は死活問題なのです。
青年集会では、それぞれの国で青年が直面する問題を報告しあいました。驚くべきことは発展途上国と先進国に関係なく、青年が農村から都市へ流出していることです。新自由主義政策のもと、どの国でも安価な輸入農産物が地域農業を破壊し、農業で生計が立てられなくなっています。都市・農村を問わず、多くの青年が不安定雇用や失業、貧困に苦しんでいますが、その原因を青年に意欲や能力がないなどの「自己責任」とする声も多く聞きます。しかし世界的に青年が同様の問題に直面している現実を知ると、もっと根本的な原因があるといえます。
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国際セミナーで発言しました |
集会では、青年がお互いの活動を交流し、学び合う必要性を確認し、そのためにも地域内での情報交換と技術交流などをさらにすすめることが決定されました。今後1年間の地域内青年の行動計画でも、この点が明記されています。
青年は多くの問題に直面しています。しかし青年には、集って問題を共有し、ともに考えることで、深刻な問題でも希望に変える力があると実感しました。日本でも農村の青年は孤立しがちですが、青年部のネットワークを広げることで、多くの青年とつながりながら青年部運動を盛り上げていきたいと思います。また農業だけでなく、労働や平和、環境の分野で活動する青年ともつながって、さらに大きな運動になると考えています。
新しい国を駆け巡る
青年のエネルギー
農民連青年部幹事 武田 伸也
初めての東ティモールで、一番印象に残っているのはディリと農村間の移動です。最初「移動はバス」と日本的感覚で思い込んでいたところ、迎えに来たのはトヨタや日産などの中型トラック。「これに乗るの? 何時間ドライブ?」と不安に思いながら乗ってみると、意外と乗り心地がよい。窓がないので360度視界が開け、素晴らしい景色でした。
ディリ市内を通り、山を越え、海岸に沿って進み、バナナの森を抜け、出発してから約1時間半後に農村に無事到着。行きも帰りも移動中はずっとスピーカーを積んだトラックから「アラート!アラート!アラート! たたかうビア・カンペシーナ青年たちが行く!」のスローガンが繰り返し叫ばれていました。特に帰路でより声が大きくなり、青年の声が東ティモール中に響きわたっていました。独立してからまだ6年しかたっていない、この新しい国を背負っていく青年の国を思う強い気持ちは、かけ声に明確に表れていました。
最も「新しい国」と実感させられたのは、東ティモールの貨幣システムです。インドネシアからの独立後、紙幣は米ドルを使用していますが、硬貨は米国のセントではなく2003年から独自の硬貨「センタボ」を使用しています。センタボを手に取って見ると、2003年以前の年号はなく、この国の新しさが現実味をもって痛感できます。
最終日の昼食時に、現地組織HASATILの調整委員であるアルセーニョ(35)、メンバーのマレベ(31)と、「独自の紙幣がないのは非常に残念だ」という話になりました。そして「いつかアルセーニョの顔が紙幣に刻まれることを期待するよ」と冗談を言い、皆で笑ったところ、マレベはすぐに真剣な顔になり、実際にそれも不可能ではないことを示唆し、アルセーニョは2012年の選挙に出馬するとの決意も語ってくれました。「自分たちがやらなければ誰がやる?」――自分たちが国をつくっていかなければならない位置にいることを自覚していることが、彼らの目から熱く伝わってきました。
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アルセーニョにおみやげを渡して固い握手 |
自国の貨幣があるのが当たり前と思い生きてきた日本人の一人として、「貨幣も自分たちで作るもの」という経済の原点に触れる会話を、少しでもできたことは非常に貴重な体験でした。
今、日本は多くの若い命を犠牲にしたあの戦争の遺産である憲法9条と農地改革を、時代に逆行して改悪しようとしています。「なぜ9条ができたのか?」「なぜ農地改革が行われたのか?」――新しい国、東ティモールの青年と触れ合うことで、これらの問題をより深く考える責任が、「古い国」日本の青年にはあると教えられました。
青年集会の日程
25日 東ティモール・ディリ着。現地組織のHASATILからの歓迎とオリエンテーション
26日 農業視察先へ移動。大臣らと青年の対話セミナー。青年キャンプを訪問・交流・宿泊
27日 国際セミナー「農業の発展への青年の役割」(約250人参加)。ディリへ移動
28〜29日 LVC東南・東アジア地域青年集会
29日 夜 文化交流と送別会
30日 タイス市場を見学。帰国
(新聞「農民」2009.4.20付)
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