「ある農高卒業生の死」
(アフガンで拉致、殺害された伊藤和也さんのこと)
元教師・大垣久雄さんのエッセーから
農業高校の教師らでつくる全国農業教育研究会の「会報No211」号に、静岡県に住む大垣久雄さんの「ある農高卒業生の死」というエッセーが載っています。その一部を転載します。
農業そのものが若い人の志を
育てる力を持っている…
昨年8月26日、アフガニスタン東部のジャララバード近郊で日本のNGOペシャワール会の伊藤和也さん(31)が、反政府武装組織に拉致され、翌日、遺体で発見されました。
伊藤さんは、私が教師として勤務した静岡県立磐田農業高校・農業科の卒業生です。私が赴任した当時、伊藤さんは2年生で、直接かかわることはありませんでしたが、テレビや新聞の報道から、ある感動がふつふつと湧いてくるのを抑えられなくなりました。
「海外で農業を」の夢
磐田農高での伊藤さんの課題研究テーマは、「サツマイモの茎頂培養を試みて」というもので、卒業後、県立農林短期大学校の園芸課程に入学し、イチゴやトマトの栽培に取り組みました。農業後継者ではない伊藤さんは、早くから海外で農業を実践する夢を持っていたようです。短大卒業後、ペシャワール会に入りましたが、その動機は「アフガニスタンを本来あるべき緑豊かな国に戻すことをお手伝いしたい」「子どもたちが将来、食料のことで困ることがない環境に少しでも近づけることができるよう、力になれば」というものでした。
「イトー、イトー」と
志高く、アフガニスタンを愛し、まじめで堅実に行動する伊藤さんは、2003年から5年余り、用水路の建設やサツマイモ、菜の花、お茶などの農産物の栽培と指導にあたっていました。現地では「イトー、イトー」と慕われ、最高の信頼関係とされる住民宅に食事に招かれることもたびたびあったと聞きました。
磐田農高の同級生は「彼はおとなしくて静かだったが、たくましくなった。彼は母校の誇り」と語っています。なんの私利私欲もなく、純粋に現地の人々の幸せのために献身的に活動した伊藤さんを、ペシャワール会の中村哲医師は「アフガンの農民の一人になりきり、その平和的な生き方によって困った人々の心に明るさを灯した」と讃えました。
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アフガニスタンで農業指導をする伊藤和也さん(提供=ペシャワール会) |
寡黙で不器用だが
農業高校には、彼のように寡黙で、不器用だが志のしっかりしたダイヤの原石のような人材が埋もれているのではないでしょうか。いや、農業そのものが、そういう志を育てる力を持っているのではないでしょうか。
伊藤さんの志が、若い人たちに受け継がれていくことを期待しています。
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伊藤和也さんはアフガニスタンで数多くの写真を撮っていました。その追悼写真展「アフガンに緑の大地を」が、京都市、名古屋市、千葉県松戸市、仙台市など各地を巡回します。詳しくは「ペシャワール会」まで。TEL 092(731)2372、またはホームページ。
(新聞「農民」2009.4.13付)
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