会津農民連前会長の前田新さんの作品
“彼岸獅子舞の村”を訪ねて
農民連前会長・佐々木 健三
前日までのポカポカ陽気から一転して、3月20日は寒さの厳しいお彼岸でした。会津農民連の前会長で農民作家、前田新さんの農民文学賞作品「彼岸獅子舞の村」をぜひ訪ねたいと思い、長野の小林節夫さんとともに訪ねました。
春を呼ぶ農民の舞に
さわやかな感動味わえた
200年の伝統
「重くたれこめた鉛色の雲は会津の山なみを覆い、まだ早い春の気配の中で彼岸獅子の笛と鐘の音が響きわたる」―これは、前田作品のフレーズです。この日もまさにそのような情景でした。前田さん宅に着くと、会津の伝統的なお彼岸の時に出される食事(味ふかし、こづゆ、揚げまんじゅう、天ぷら、漬け物)をいただきました。素朴ななかにも会津の伝統を感じさせる風味豊かな食事で、おかわりをいただいたほどおいしいものでした。
かつて、彼岸獅子舞は会津の各地で行われ、それはにぎやかなものだったそうですが、今ではわずかになってしまいました。そんな中で、高田町西勝地区では伝統を引き継いでいました。彼岸獅子舞の歴史は古く、200年を超す伝統があると言われています。長く厳しい冬を越し、あのまばゆい光の春を待ち望む村人たちの期待を込めたものです。伝統を継承するには、農村の困難な状況を反映して大変な苦労があるだろうと推測されます。
優雅な振り付け
踊り手が3人、笛太鼓6人、先導、世話役2人の計11人からなる一行が、笛の音と太鼓の音で通りを流し、家の間口に立ちました。そこで当主のあいさつを受け、舞を始めるのです。鳥の尾のついた獅子頭をかぶり、赤い着物に足袋、ワラジを履き、胸に小太鼓をかかえ、笛の音に合わせて踊ります。踊りには幾通りもの振り付けがあり、それは優雅なものでした。
手をかかげ、静かに打ち下ろし、太鼓をたたき、鳥の尾の頭を両手でなで上げ、前かがみになって優雅に足を運ぶ。それは、雪国会津で生活する人々のつつましやかなたたずまいを思わせる所作のようにも思えました。
およそ500メートルの通りに面する家々をめぐると、踊りを見守る地域の人々のなかには、かつて踊り手をやった人もいて、「がんばれ」とか「どうした」とか励ましの声がかかります。真冬を思わせる寒さのなか、踊り手たちは息も弾み、足さばきを気づかい、懸命に踊っていました。
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家の間口の前、笛の音に合わせて踊る“彼岸獅子”たち |
以前はこの踊りが3日間続き、全地区をめぐったそうですが、今では1日2時間のみ。それでも踊り手やそれを迎える村人たちに、この伝統ある彼岸獅子舞はあたたかく迎えられていることを知ることができました。前田さんの作品は、この彼岸獅子に取り組む村人のありさまを丁寧にまとめあげたものでした。早春の1日、さわやかな感動を味わうひとときとなりました。
(新聞「農民」2009.4.13付)
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