ヒマラヤ直下の国 ネパールでの国際会議に参加して食糧主権・農地改革・農民の権利守ろう世界各地から14カ国代表が一堂に
世界の登山家の聖地、ネパールで食糧主権・農地改革と農民の権利に関する国際会議が八月二十九日から三十一日まで開かれました。会議には全ネパール農民連盟(ANPFa)とビア・カンペシーナの招待を受けて、農民連(真嶋良孝副会長、杵塚歩青年部副部長=通訳)と食健連(坂口正明事務局長)の代表が参加しました。
世界で初、食糧主権を憲法に明記したネパールネパールは、昨年四月に独裁的な王政を打倒し、抑圧されていた政党による連合政権が民主主義的な政治を進めています。ことし一月には、国民主権をうたい、世界で初めて「すべての国民は食糧主権を有する」ことを明記した暫定憲法が施行されています。国際会議は、十一月に予定されている制憲議会選挙を前に、この流れを確かなものにすることと、「ネパールの経験を世界中に広げるための国際連帯を強化する」(ビア・カンペシーナのヘンリー・サラギ国際代表)目的で開かれたもの。九農民組織のネットワークであるネパール農民連合とビア・カンペシーナが共催しました。 会議には、日本のほかアジア、ラテンアメリカ、アフリカ、ヨーロッパから十四カ国の代表が参加しました。ビア・カンペシーナからはヘンリー・サラギ、ジョゼ・ボベ、ポール・ニコルソンの各氏、ネパール国内からは三百人を越える農民が参加。女性の参加が多いことが目を引きました。 外相や農業・協同組合相、森林・地方開発相、主要政党代表も参加しました。
「私たちは必ず勝利する」前首相でもある全ネパール農民連盟のバンデム・ゴータム議長の報告は圧巻でした。同議長は、ネパールの人口二千五百万のうち小農が千六百五十万人、土地なし農民が三百万人で約八割を占め、千五百万人が飢餓・栄養不良状態にあることを告発。こういう状態を打開するために五十五年間にわたって王政の専制支配とたたかってきたネパール農民の運動が、国際的な農民運動と結びついて食糧主権を暫定憲法に盛り込ませることに成功したことを報告。 同時に、WTOや多国籍企業という外部勢力と、少数の封建地主、買弁資本家とのたたかいが引き続く課題であることを指摘し、広範な社会階層と手をつなぎ、国際連帯を強めて実効ある食糧主権法の制定に向けて前進することが課題だと強調し、「私たちは必ず勝利する」と結びました。 また、政府を代表して出席したサハナ・プラダン外相は「憲法に食糧主権が盛り込まれたが、それを実効あるものにするための具体策が作られていないこの時期に国際会議が開かれたことは重要な意義を持つ」と発言。デブ・グルング森林・地域開発相は「ネパールの農民社会の強化と食糧主権確立のために、国際的な連帯と援助を」と呼びかけました。
食糧主権に逆行する日本での動きを告発日本代表団は飛行機の故障のため遅れて参加しましたが、到着を待ちかまえていたように、分科会や全体会などで発言を求められました。私(真嶋)は、ネパールの経験が大きな励ましになると述べるとともに、日本では食糧主権に逆行する動きがあると次のように告発しました。(1)日本の財界と政府は農産物を完全輸入自由化して穀物自給率を二七%から二・七%に低下させようとしている、(2)世界人口の二%を占めるにすぎない日本が世界の食糧の一〇%を買いあさっているが、三〇%を買いあさることになる、(3)世界に誇っていい農地改革が第二次大戦直後に実施されたが、いま、これを根本からくつがえす動きが強まっている――。 同時に、日本には食糧と農業を守る幅広いネットワークとして食健連運動があり、「もう一つの流通」として産直・地産地消の運動が広がっており、こういう力を土台にして、食糧主権に対する逆流を許さないたたかいをしていることを紹介しました。
耕して天にいたる見事な棚田の景観会議の後、九月一〜二日には、カトマンズ盆地からネパール南部のタライ平原まで南下し、三つの小農協同組合を訪問しました。その一つ、村人の三分の二が出資・参加しているクンパー・ダディン村の協同組合は、有機農業を進め、組合直営小売店と都市への共同販売によって中間搾取を排除して、農産物を販売しています。国道側から村への交通手段は人が一人渡れるだけの吊り橋一本。そのため、病人を病院に運んだり、村の中に学校を作る、水道を確保することは重要な仕事です。 このほか、かつては高利貸しから金を借りるしかなかった村人に融資したり、労災保険業務も行っています。若いスタッフが「私たちの仕事はすべて農民の生活向上のため。一日ではとても説明しきれないほどの内容です」と自信満々に語ってくれたのが印象に残りました。 夕方になって訪れた先住民の協同組合では、朝から待っていてくれた人々がダンスで私たちを歓迎してくれました。 あいにくの天候で、エベレストもアンナプルナも見ることができませんでしたが、「耕して天にいたる」棚田にネパール農民たちの汗の結晶を見ました。 カトマンズ市内のカリマティ市場では、色とりどりの野菜と果物に加えて、なつかしい豆腐と枝豆に出会えました。 ネパールの一人当たり国内総生産(GDP)は三百十ドルと、アジア最低。数字から連想される貧しい国というイメージとは裏腹に、しっとりと落ち着いた農村のたたずまいと、質素ではあるが意外に豊かな人々の営みに浸った小旅行でした。 (農民連副会長 真嶋良孝)
(新聞「農民」2007.9.24付)
|
[2007年9月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224
Copyright(c)1998-2007, 農民運動全国連合会