改憲手続き法案〈上〉
そのカラクリと“毒”
自由法曹団 坂本 修団長に聞く
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安倍首相は「憲法改正」を七月の参議院選挙の争点にすると公言し、自民・公明の与党は、「憲法記念日の五月三日までに改憲手続き法案を成立させる」「野党が応じなければ、単独でも採決する」などと言っており、きわめて緊迫しています。改憲手続き法案のねらいや背景などについて、自由法曹団・団長の坂本修弁護士(74)に聞きました。
緊迫! 悪法の正体を国民に知られる前に一気に通そうと
なぜ急ぐ?
――国民が望んでもいないのに、なぜ急ぐのでしょうか?
坂本 安倍首相は、日米同盟は「血の同盟」でなければならないと言い、「任期中(六年間)に憲法を改正する。できれば、前倒しでやりたい。そのために、まず改憲手続き法案を早期に制定する」と、繰り返し公言しています。
憲法九六条では、国会の両院の三分の二の発議だけではなく、主権者である国民の過半数がこの憲法を変えるという国民投票ではっきりさせなければ絶対に変えてはならないと定めています。ところが「九条の改悪には反対だ」という国民は多数です。そんななかで、なんとか改憲の道筋をつけるために、この法案成立をたくらんでいるのです。
急いでいる理由は、二つあります。一つは、この法案のなかに国会法の改正をもぐりこませ、法案成立後の国会で改憲政党が圧倒的多数の憲法審査会を設けて、改憲のための審議を三年かけて始めようとしていることです。これによって盛り上がっていない改憲運動を、国会から“風”を吹かせて促進しようということです。
もう一つは、なにがなんでも国民投票で改憲勢力が勝てるように、不公正なカラクリや“毒”を盛り込んだ法案の正体が、国民に知られないうちに急いで作ってしまおうということです。
問題点は?
――改憲手続き法案の最大の問題点は、どこにあるのでしょうか?
坂本 私は弁護士活動を始めて四十八年になりますが、こんなイカサマな法律案は見たことがありません。こともあろうに、国の最高法規である憲法を抹殺し、「戦争する国」にするために、憲法九六条を「空洞化」する違憲立法をつくる―これが法案の本質です。
手続きの基準を低くして改憲可能へ
投票率では
――さきほど、カラクリと“毒”と言われましたが。
坂本 カラクリと“毒”はいくつもありますが、三つにしぼります。第一は、最低投票率の制度がないために、投票率によっては国民の五人に一人でも賛成すれば改憲が可能だということです。たとえば、岩国の住民投票では投票率が五割を超えなければ開票しないとか、デンマークでは全有権者の四割が賛成しなければ改憲手続きを認めないとか、厳しい基準を設けています。ところがこの法案は、できるだけハードルを低くするために、「有効投票(白票・無効票は含まない)の過半数」としているだけです。これは、改憲に反対、あるいは賛成はしないという多数派国民の意見を切り捨て、九六条が定めている「国民の過半数」をすり抜けるための規定だと言わなければなりません。
第二に、国民の自由な国民投票活動にしばりをかけていることです。具体的には、国家公務員、地方公務員、教育者(国公立、私学すべて)、あわせて約五百三十万人の人たちに「その地位を利用して国民投票運動をすることはできない」と規定しました。違反者は処分の対象になるのですから、委縮効果は大きいでしょう。
公務員は、憲法を擁護しますと宣誓して職についた人たちです。先生は、子どもたちを二度と戦場に送らないとがんばってきた人たちです。どうしてこの人たちが“改憲反対、九条守れ”と言って運動してはいけないのか。言論の自由、政治活動の自由を侵害するこの規定は、明らかに憲法違反です。
有料CMで
第三に、すべての国民の頭と心を支配しようとしていることです。それは、国民運動期間中(六十〜百八十日の間、投票直前の二週間を除く)に、テレビCMなどで「改憲に一票を」という有料コマーシャル放送や、スポンサー付き改憲PRの宣伝番組放送がまったく自由だということです。最小限の効果があったというレベルのコマーシャルを全国ネットで流すと、一本約四〜五億円と言われています。国民運動期間中に連日CMを流すと、少なくとも数百億円、一千億円は優に超えるのではないかと、メディア関係者は言っています。
コラムニストの天野祐吉さんは「カネで憲法が買われていいのか」とまで言っていますが、まさにその恐れが十分です。財界からみたら、一千億円のカネをだして憲法をかえられるなら、こんな安いものはないでしょう。しかし、私たちはこんな絶対的なカネの格差では太刀打ちできません。
平等な放送で自由に考え、一人一人が決めて国民投票をする、その権利が奪われるのです。これでは、公正な国民投票にはならないし、民主主義に反しています。今度の改憲手続き法案は、改憲反対の人はもちろん、民主主義を大事にしようと思うなら、みんなが反対しなければならない悪法です。
(つづく)
〇七年度予算案が自民・公明の与党によって、十八年ぶりに強行採決された三月二日夜、「五・三憲法集会実行委員会」主催の「STOP! 改憲手続き法案三・二大集会」が東京・日比谷で開かれ、二千人が参加しました(写真〈写真はありません〉)。農民連も憲法団体や市民、女性、宗教団体などとともに参加し、国会に向けて「九条守れ」「改憲のための手続き法はいらない」と声をあげながら、デモ行進しました。
マスコミは「安倍首相が予算案を強行したのは、五月三日までに改憲手続き法案の成立に向けて、審議日程を確保するため」と報道しています。
集会は「憲法改悪を許さないためには、目の前の改憲手続き法案の成立をくいとめることが、いま何より重要です。ともに声をあげ、行動を起こしましょう」とのアピールを採択しました。
(新聞「農民」2007.3.12付)
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