「農民」記事データベース20070108-762-10

農業を観光と結びつけ地域活性化

片品村 群馬

 群馬県の北東部、片品村は、高山植物と湿原で名高い尾瀬の玄関口として知られています。村は、観光と農業を結びつけた取り組みで、特産物作りや都市との交流に力を入れています。


古くからの特産物・大白大豆

納豆・みそ・豆腐に加工
農家のやる民宿・旅館で

田植え・炭焼き・そば打ちの体験も

 片品村は、栃木、新潟、福島の各県境に接し、尾瀬をはじめ武尊山、白根山などの山々に囲まれ、湖沼にも恵まれた観光地。冬は七カ所のスキー場がフル稼動し、年間を通じ観光客が訪れます。

 人口は約六千人。うち農業就業者は五百六十人で、農家戸数は四百五十戸になります。農家の多くは、夏に農作業に従事し、冬は地元の民宿や旅館、スキー場などの観光施設で働いています。

 地元産を民宿と土産用に加工

 昼夜の温度差が大きい内陸型の気象条件や首都圏に近い立地を生かした農業が行われ、ダイコン、レタスなど高原野菜、トマトの栽培が盛んです。

 「地元の野菜、果物をピーアールし、お客さんに来てもらう努力は欠かせません。『片品村の農産物はおいしい』と都会の人たちにも評判ですよ」とアピールするのは、村役場むらづくり観光課の桑原護課長。

 村で採れる生鮮野菜に加えて特に力を入れているのは、尾瀬ブランドを生かした特産品作り。なかでも大白大豆は、片品で古くから自家用に栽培されてきた大豆を、有限会社尾瀬ドーフが復活させ、自社農場と村内の契約農家で作られています。粒は大きく、甘味とコクのある風味が特徴で、大粒納豆、大白味噌(みそ)、大白豆腐などとして加工されています。

 加工品作りの拠点になっているのが、農協の農産物加工開発センター。片品産農産物を加工した花豆のアイスクリーム、りんごジュースなどを製造しています。「地元で採れたものを民宿に提供し、土産用に加工することで、農業の振興に結びつけ、地域の掘り起こしにもつなげる」(同センター担当の笠原徳久次長)ことがねらいです。

 力を入れてきた都会との交流

 「村はずっと農業と観光の二本立てでやってきた。農村と都市との交流が定着してきました」。農協旅行センターの永井光雄センター長は感慨を込めて振り返ります。

 農協は二十年ほど前から、農業観光課新設、旅行センター業務開始などの観光業務に取り組み始め、都会との交流に力を入れてきました。

 村では、約二百八十戸の農家が民宿や旅館を経営。「見る観光から体験する観光へ」(片品村農協の星野弘一相談役)の合言葉のもと、山菜採り、田植え、稲刈りのほか、炭焼き体験、そば打ちなどができる体験宿として登録されています。

 農協は、体験施設を充実させようと、尾瀬わくわく体験郷(むら)を開設。伝統工芸作りや陶芸などが楽しめ、小中学校の校外学習などに利用されています。

 集客のための農協主催イベントも年間を通じて実施。一月から三月にかけて行われる「でっかまと湯食楽(ゆっくら)祭り」は、組合員の民宿で大きなかまくら(でっかま)を用意し、中でゲームなどを楽しみながら、地元の農産物を味わい、温泉でくつろいでもらうプログラムです。

 合併せず単独でがんばってきた

 こうした創意あふれる施策がなぜできるのか。

 片品村は二〇〇四年十月、沼田市との合併についての意思を問う住民投票を実施し、村民は「自分たちの村は自分たちでつくる」と、自立の道を選択しました。

 千明金造村長は役場のホームページで「この村には豊かな自然があります。豊富な資源に恵まれています。そして、片品村には素晴らしい人材がそろっています。大きなお金をかけなくても、資源の発掘や既存の施設等を最大限に生かした村づくりが可能だと考えています」と、新たな村づくりに自信をみせています。

 村の自立に先がけて、合併せず単独でがんばってきたのが農協です。農家の笠原森〓(※)さん(49)は「村単独の農協だから顔見知りも多く、腹を割って相談できる。農家にとって身近な存在です」と期待を寄せています。

 利根沼田農民連に加盟する利根農民の会(吉野浩造会長、沼田市と片品村の農家会員で構成)は、直売所を通じた農産物の提供や、首都圏の生協と交流するとともに、市や村にたいして、地産地消の推進を求める請願、陳情を行うなど、地域の農業振興に力を尽くしています。

※〓は、「吉」の異体字、つくり(上半分)が、「士」。

(新聞「農民」2007.1.1・8付)
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2007年1月

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