「農民」記事データベース20061218-761-02

日豪EPA 日本農業を壊滅に追い込む
日比EPA 比を産廃物のゴミ捨て場に

 FTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)をめぐって新たな事態が浮上しています。それは(1)日本農業を壊滅に追い込む日本・オーストラリアEPAが「例外」扱いなしで交渉入りする可能性が強いこと、(2)日本・フィリピンEPA協定に、日本がフィリピンに産業廃棄物を「関税ゼロ」で「輸出」する条項があることが明らかになったことなどです。


日豪EPA

小麦・砂糖は壊滅牛肉、牛乳は半減

 日本の二十倍の国土にわずか二千万人が住むオーストラリア。自動車メーカーが一社もないなど、工業は決して発達しているとはいえないかわりに、農産物とエネルギー資源と鉄鉱石の大輸出国です。

 日本が輸入する牛肉の九割、乳製品の三二%はオーストラリア産でダントツの一位。砂糖三〇%、小麦二二%、米一五%前後もオーストラリアからの輸入です。

 日本では基幹的な農産物ばかり

 いずれも基礎的な食糧であり、日本農業にとって基幹的な作物で、関税も高率です(マークアップなどを考慮に入れると、牛肉で三八・五%、バター四八〇%、砂糖三二五%、小麦二五二%、米七七八%)。

 一方、オーストラリアからの輸入の六八%を占める石炭や天然ガス、鉄鉱石の輸入は関税ゼロ。したがって「例外」を認めずに交渉に入った場合、日本が関税引き下げや撤廃を行いうるのはこれらの農産物だけということにならざるをえません。

 農水省は、オーストラリア産農産物の関税が撤廃された場合、日本の小麦・砂糖生産は壊滅し、乳製品・牛肉生産もほぼ半減するという試算を公表しましたが、事態はそれほど深刻です(表)。

 
農水省の試算
 
国内生産の残存率
国内生産の減少額
小麦
1%
1200億円
砂糖
0%
1300億円
乳製品
56%
2900億円
牛肉
44%
2500億円
合計
 
7900億円
「豪州産農産物の関税が撤廃された場合の影響(試算)」(農水省06.12.1)

 しかも、オーストラリアに対する譲歩をアメリカが見逃すはずはなく、当然アメリカ産農産物に対しても大幅譲歩を強要することは間違いありません。

 関税撤廃で財界・大企業は暴利を

 一方、オーストラリアが日本から輸入する品目の約九割を占める工業製品の関税は五〜一〇%。これを撤廃させ、さらに大もうけをねらっているのが財界・大企業です。

 御手洗富士夫経団連会長など経済財政諮問会議民間議員は十一月二日、(1)日米・日中EPAの検討、(2)二年間でEPAを三倍増に、(3)関税完全撤廃、規模拡大のスケジュールを含めた農政改革工程表を年度内に作ることを要求しました。

 しかし、オーストラリアの平均経営面積は一戸あたり三千三百八十五ヘクタールで、日本の約千九百倍。財界などが求める十ヘクタール経営になったところで、とうてい太刀打ちできるレベルではありません。

 それでも「例外なし」で交渉入りするとすれば、安倍首相の「美しい国」とは、農業のない「きたない国」といわざるをえません。


“東アジア・ゴミ捨て場共同体”?

 バナナやパインの輸入を増やすだけでなく、看護師・介護士まで「輸入」することを取り決めた日比EPAが十二月七日、日本共産党以外の賛成で可決・成立しましたが、新たな問題が浮かびあがっています。

 「砒素(ひそ)・水銀・タリウムを含む灰と残さ」「医療廃棄物(ガーゼ、包帯、手術用手袋など)」「有機溶剤」などの「廃棄物」の関税をゼロにすることが、同協定にもとづくフィリピン側の関税削減品目表に明記されています。

 「資源の国際リサイクル」が名目ですが、発展途上国を先進国のゴミ捨て場にする廃棄物の「貿易」は国際条約(バーゼル条約)で抑制・禁止しています。国際条約に反することを堂々と協定に盛り込み、しかも国会に提出した協定案では、意図的にこの部分の邦訳を「省略」するという悪どいやり方を押し通しました。

 日本政府のやり方は周到で、昨年六月に政府系研究機関が“産廃捨て場特区”をアジアに作り、日本から「輸出」する「東アジア共同体」を構築することを主張しました。日比EPAは、この構想の第一号で、日タイEPAにも同じ規定が盛り込まれる見通しだといいます。

 これでは“東アジア・ゴミ捨て場共同体”だといわざるをえません。


新たな事態は何を示しているか

 FTA・EPAはもともと、原則関税ゼロをめざして、WTOより進んだ自由貿易体制を追求するものであり、大なり小なり農業と地域経済に破壊的な影響を及ぼさざるをえません。日豪EPAは、こういう本質を極端な形で示しています。

 私たちは、日本農業の基幹作物を壊滅させる日豪EPA交渉に強く反対すると同時に、どんな作物であれ、破壊的な影響を及ぼすFTA・EPAに反対してたたかいます。

 もう一つ、日比EPAが示しているのは、“二国間のFTAならば、それぞれの国の事情・主張も通りやすい”どころか、日本という大国が東南アジア諸国に対して、どれほど横暴にふるまっているかという事実です。フィリピン環境省副長官の次の発言は象徴的です。

 「日比EPAは、すべてか無かの妥協を許さない協定案であり、フィリピン政府が一万千三百の物品の一つか二つに同意しなければ、この協定案はないものとなると告げられた」「(ゴミ捨て場になることを拒否するという)立場に固執することにより、医療労働者が日本で就業することを不可能にするわけにはいかなかった」(フィリピン・デイリー・インクワイアリー、06年10月26日)。

(新聞「農民」2006.12.18付)
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2006年12月

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