日経調「農政改革」提言と
日本の農業・農民
駒沢大学名誉教授 石井 啓雄(いしい ひろお)
第14回 小作料・地価と農地課税問題
日本の農地法には、これまで述べたこと以外に小作地の所有制限(第六条以下)や小作料の調整に関する規定(同第二一条〜第二五条)などがあり、農地価格についても国が買収する場合の算定式が政令(第二条)にあります。
小作地所有制限と小作料について
これらの規定はみな重要ですが、今の時点で考えると、第一に小作地所有制限に関しては、一九七〇年の改正で農地を貸し付けて離村しても在村者の所有制限面積の範囲内であれば、相続人を含めて不在者扱いはしないとされた結果、生じてしまった問題があります。それから一世代の年月が経ち、また農民家族の中でも分割相続が増えるようになって、農業経験がないまま都会に出た相続人の所有する農地が耕作放棄地などになりやすいという問題です。
第二の問題は、小作料についてですが、一九七〇年の法改正で小作料統制は廃止され、標準小作料を中心とした制度に移行しました。それは収益地代算式に基づいて、地域の実態に即した小作料の標準額を農家に示すという制度です。これについては、近年の米価急落の下で、標準小作料の額も引き下げる措置が続いており、実際の小作料も下がっているのですが、そこに新しい問題が生じているのです。今の貸し手には、わずかな年金と小作料だけで生活している高齢者が少なくないことと、固定資産税に加えてしばしば相当の土地改良費の償還が伴っているという問題です。そこで、単純に収益地代で割り切るわけにはいかなくなっていると思われます。
この二つの問題は、「提言」では触れていませんが、今後の農民の連帯にとっては重要な問題なのであえて記しました。村での農民による話し合い解決が必要です。
地価と土地税制をめぐって
「提言」は、農地価格について収益還元地価になるようにしなければならないというのですが、そういう「地域では、(法人企業の)農地所有も経営展開の一形態として当然である」と述べています。理論的には、資本主義的農業経営にとっては、土地の所有権の取得はまったく無駄な投資であり、借地こそ最も合理的であるはずなのに、やはり安く所有権がほしいというわけで、これこそが財界のよこしまな本音でしょう。
ただ家族農業の存続にとっても、農地価格は農業収益をもとに形成されるのが望ましく、それだけに、大企業や公的主体の大規模開発を抑制し、農用地区域の制度の運用を厳格にすることと、農地法の転用統制の維持を断固として要求し続けなければならないのです。
次に、農地税制の問題について。「提言」はまず、固定資産税の課税標準額が、市街化区域以外では、「転用価格や近隣非農地価格などはいっさい考慮されず農地としての利用価格で評価される」ので低く、したがって税額も安く、「転用期待による農地保有を助長している」と言います。しかし、これは二重の意味で暴論です。農地が農地としての利用を前提に評価されることは文字通り当然であり、また農地はいずれ必ず転用されるべきものでは決してないからです。
また「提言」は、農業者年金制度や後継者対策として作られた相続税の納税猶予制度についても同じような理由で非難し、さらに面積に応じた一律課税でなく、規模や利用あるいは貸付期間に応じて税率に差をつけよ、とまで言います。しかしこれらは、農地課税評価のあり方の初歩も、農地保有税制そのものの意味も、まったくわきまえていない詭弁(きべん)です。
(つづく)
(新聞「農民」2006.12.11付)
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