日経調「農政改革」提言と
日本の農業・農民
駒沢大学名誉教授 石井 啓雄(いしい ひろお)
第8回 農地制度の概要とその核心
農地改革の結了後、一九五二年に農地法が制定されました。当初は、地主的土地所有の復活を防止するための恒久法として制定され、法律の目的には、「耕作者の農地の取得を促進し、その権利を保護」することなどが記されていました。このため、当初の農地法は自作農主義に立っているとされてきました。そして、農地改革残存小作地の地主による解約はきわめて難しくなり、小作料も統制され、小作農の所有権取得が促されました。
50余年の間の改正経過
農地法は、現在では基本的に大企業から農民の土地を守るためのものになっていますが、この間の五〇年余りの間には、大小さまざまな「改正」が行われました。主要な「改正」は、一九六二年(農業生産法人制度の創設など)、一九七〇年(労働力調整的な貸借の発生を受けて行われた賃貸借規制の緩和を中心とする全般的大改正。自作農主義は自然人耕作者主義に変わった。また農地保有合理化法人制度とその事業が創設された)、および一九九〇年代から二〇〇〇年代にかけての数回(農業に参入できる法人の要件緩和など)の「改正」でした。
またこの間に、いずれも農地法をベースとして一九六九年に農振法(都市計画法の制定に対応)が、一九七五年に農用地利用増進の制度(市町村の計画のかたちでの複数の利用権の設定・終了制度)が制定されました。この制度は、一九八〇年に所有権移転と農用地利用改善団体の制度などを加えて農用地利用増進法の制定となり、さらに認定農業者の制度などを加えて一九八九年には基盤強化法となりました。
そのほか農地法には、農業委員会法とか土地改良法など関連法律があり、また多くの農業法が農地法の存在を当然の前提として制定されていることにも留意する必要があります。
農地法の理念と原則は不変
しかも、ここで決定的に重要なことは、このような制度の「改正」と関連法の制定などが多々ありながらも、中心にあるのは農地法であり、その理念と原則には今も変わりがないということです。その主な条項と具体的規定については、次回以降で述べますが、それは自ら家族とともにその農地を耕作する自然人にしかその権利の取得を認めないとしていることです。(農業生産法人はその例外です)一九七〇年改正以前の農地法は、三〇アールから三ヘクタール(都府県平均)の範囲内で所有権によるのが望ましいとしていましたが、改正後の農地法は、賃貸借による農地移動を広く認め、下限を五〇アールに引き上げ上限を撤廃しましたが、そのかわりに、自ら家族とともに農作業に常時従事する者にしか権利の取得を認めないとする文言を明確に記したのでした。これが耕作者主義の核心です。
小泉政権による「特区」制度以来、この「核心」からの逸脱が始まってはいるのですが、なお農地法本文にこの文言が残っていることは、今後の問題を考えていく上で、きわめて重要なことです。
(つづく)
(新聞「農民」2006.10.30付)
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